PRINCESS WALTZ

『PRINCESS WALTZ』（プリンセス・ワルツ）は、株式会社ウィルのブランドであるPULLTOPから2006年 4月28日に発売されたPC向けアダルトゲームです。本作は、その完成度と物語性が評価され、美少女ゲームアワード2006ではメディア支持賞を獲得しました。

概要

物語の舞台は、現実世界と次元を異にする異世界「エルディラント」。その中心に位置する大国「七央（セブン・セントラル）」の王子と結ばれるただ一人の后を決めるため、エルディラントを構成する6つの国の姫君たちが繰り広げる一大儀式、それが「プリンセスワルツ」です。

本作は、この壮大な儀式と、それに偶然巻き込まれた現実世界の平凡な少年が体験する波乱に満ちた恋と戦いを描いています。ゲームは、登場人物たちとの交流を通じて物語を進めるアドベンチャー（ADV）パートと、姫君同士の手に汗握る戦いを描くシミュレーション（SLG）パートの二部構成となっています。ADVパートでの選択肢は、テキストの一部や特定のイベントに変化をもたらしますが、物語の根幹は一本道であり、エンディングも一つに集約されています。

物語

主人公・深森新は、母や姉、そして気心知れた友人たちに囲まれ、ごく普通の日常を送っていました。しかし、海外からの転校生クリス・ノースフィールドの登場が、彼の運命を大きく変えることになります。非の打ち所のない容姿と気品を持つクリスはすぐにクラスの人気者となりますが、学校生活に不慣れな一面もあり、新とも自然な交流を深めていきます。

ある日、新はひょんなことからクリスが落とした「指輪」を拾い、その好奇心から指に嵌めてしまいます。この些細な出来事が、新を異世界の姫君たちの苛烈な戦い「プリンセスワルツ」へと引きずり込みます。ワルツの中で、新は自身の隠された出生の秘密、そしてプリンセスワルツという儀式に秘められた恐るべき真実へと迫っていくことになります。

プリンセスワルツの儀式

プリンセスワルツは、エルディラントにおける最高権力者である七央の王子の后を選定するための厳格な儀式です。参加できるのは、七央を除くエルディラントの6つの王国を代表する姫君たち。儀式を勝ち抜いた姫は七央の王妃の座を得るだけでなく、その出身国はエルディラント全土において政治的に絶大な影響力を持つことになります。

儀式は、全てを管理・進行する「裁定者」の立ち合いのもと、厳格な「プリンセスワルツ憲章」に従って執り行われます。基本ルールは姫君同士の一対一の決闘です。参加者は任意の相手に決闘を申し込むことができ、申し込まれた側は原則としてこれを断ることはできません。決闘の際には、各国王家に代々伝わる特別な装束「ドレス」を身に纏います。ドレスは装着者の能力を飛躍的に向上させる力を持つ、その国家を象徴する存在です。そして、ドレスを制御する「ティアラ」の破壊が勝敗を決します。敗北した姫はワルツの参加資格を失い、エルディラントへ送還されます。こうして最後に残った一人の姫が、プリンセスワルツの覇者となるのです。儀式の舞台はエルディラント内に限らず、異世界に存在する数千もの「森の門」を通じて、新たちの暮らす現実世界が選ばれることもあります。

異世界エルディラント

本作のもう一つの舞台、エルディラントは、七央を頂点とする六つの王国からなる世界です。七央はエルディラントの政治、経済、宗教の中心地であり、都市として発展しています。周辺六国はいずれも個性豊かな国家です。例えば、北方のソルディアは勇猛な騎士団を擁する「傭兵王国」として知られ、前回のワルツ覇者を輩出した実質的な最強国です。西のアグニスは火山帯の国で、竜との契約によって特別な加護を得た「竜の姫」が存在します。南のシホウは豊かな農業国で、中世日本に似た文化を持ち、清らかな「大地の姫」が統治しています。南東のレンスタンツァは海上貿易が盛んな海洋国家で、海賊の血を引く「嵐の姫」が艦隊を率いています。南西のパルミードは交通の便が悪く職人ギルドが政治を行う技術立国で、国内最高の技術を結集した「鋼の姫」が参加します。南部のヴィスレイは広大な森林国家で、「牙の族」と呼ばれる古代種族と共存しており、「獣の姫」が異世界への門を守護しています。

物語を彩る登場人物たち

主人公の深森新は、明るく熱血漢ですが、少々子供っぽい面も持ち合わせています。血の繋がりはないものの、深い絆で結ばれた母と姉との平穏な生活を送っていましたが、クリスの指輪が彼をワルツへと巻き込みます。物語が進むにつれ、彼自身が七央の正当な「王子」であり、本名はクリス・ノースフィールド、そして転校生として現れたクリスは腹違いの妹であることが明らかになります。

メインヒロインのクリス・ノースフィールド（声：沢井春香）は、表向きは気品ある完璧な「王子様」として振る舞いますが、実は女性であり、不完全な力を持つことに葛藤しています。彼女は身分を偽り、ソルディアの「剣の姫」イーリスとしてワルツに参加しますが、新と指輪の力で合身し、共に戦うことになります。彼女の素性やワルツへの参加には、実母であるセシリア（神官長キジェ）の深い陰謀が絡んでいます。

ワルツに参加する姫たちも魅力的なキャラクター揃いです。高慢だが実力は確かなアグニスの「竜の姫」アンジェラ・ヴィクトワール・ブレンディン（声：このかなみ）、物静かで世間知らずながら強いプライドを持つシホウの「大地の姫」式神楽清白（声：柳井流海）、明るくハイテンションなレンスタンツァの「嵐の姫」リリアーナ・ルン・ルン・ギュンスター（声：鷹月さくら）、冷徹で手段を選ばないパルミードの「鋼の姫」リーゼル・ヘンゼル（声：ほくとゆりあ）など、それぞれが異なる動機と戦い方でワルツに臨みます。リーゼルは後に新のクラスメイト、金田理子の仮の姿であることが判明します。

新の義姉である深森静（声：三咲里奈）もまた、ヴィスレイの「獣の姫」としての隠された力を持つワルツの参加資格者です。弟を深く愛し、彼を守るためならどんな相手にも立ち向かう彼女の力は、物語の展開とともに覚醒していきます。彼女たちの母であり、新の義母である深森七重（声：大福子）は、実は前回のワルツ参加者であり、新を現実世界へ連れ出した張本人です。

物語の鍵を握る存在として、約1000年前にエルディラントを平定した伝説の勇者エルディンがいます。その伝承は複数存在し、彼が「魔王」と同一人物であり、理想を求めすぎて暴君と化したという真実が、物語の核心に深く関わってきます。

平凡な日常が突如として非日常に侵食され、自らの隠されたルーツと向き合いながら、異世界の姫君たちとの戦い、そして複雑な人間関係の中で成長していく少年の姿を描いたファンタジー作品です。

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