PV-7
カシオ計算機が1984年10月15日に市場へ投入したホームコンピュータが「PV-7」です。MSX規格に準拠した本機は、当時のパソコンとしては異例とも言える価格設定で注目を集めました。
価格戦略と開発背景
PV-7が発売された1984年当時、MSX規格のコンピュータは通常5万円以上の価格帯で販売されていました。これに対し、カシオは29,800円という、ほぼ半額に近い価格での提供を実現します。開発の背景には、家庭用ゲーム機であるファミリーコンピュータに対抗可能な価格帯、具体的には19,800円を目指す野心的な目標がありました。カシオが長年培ってきた電卓製造のノウハウを活かし、コスト削減のため基板を片面化するなど、徹底した合理化が図られました。最終的な価格は目標には届かなかったものの、3万円を切る価格を実現し、消費者にとって手の届きやすい存在となりました。
スペックと機能の制約
低価格化の代償として、PV-7の仕様は一部で制約を受けました。メインRAMはMSX規格で許容される最低限の8KBに抑えられ、カートリッジスロットも本体に1つのみという実装です。この限られたRAM容量では、本体内蔵のBASIC言語で動作する多くのソフトウェアの利用は難しく、また、文字入力がかろうじて可能なサイズのキーボードも相まって、その主な用途はROMカートリッジ形式で提供されるゲームタイトルへと自然に集中しました。PV-7は、カシオが前年に発売した独自規格のパソコン「PV-2000」の後継という位置付けでもあり、PV-2000から受け継がれた独立したトリガーキーなどは、このゲーム機としての性格を強調しています。PV-2000向けにリリースされたゲームの一部は、MSX向けに移植され、PV-7でも楽しまれました。
市場での評価と影響
スペックの制約にもかかわらず、PV-7は市場で非常に好調な売れ行きを示しました。特にクリスマス商戦では家電量販店の店頭に文字通り山積みされ、営業担当者から喜びの声が上がったと開発に携わった人々は回想しています。しかし、このカシオによる低価格攻勢は、PV-7だけでなく後続機も含め、MSX市場全体に大きな影響を与えました。価格競争が激化し、製品単価が下落した結果、多くの家電メーカーにとってMSX事業の採算が悪化。これが要因の一つとなり、市場から撤退するメーカーが相次ぎました。MSX規格の提唱者として知られる西和彦氏は、後に自身の著書の中で「カシオの値下げによって、他の多くのメーカーのMSXは事実上市場から姿を消したも同然だった。愕然とした。」という趣旨のコメントを残しており、その影響の大きさを物語っています。
外観の特徴
PV-7の本体は平たい長方形のデザインで、特徴的なキーボードが配置されています。キー間隔が広く取られたこのキーボードは、高度なタッチタイプを想定せず、カシオが得意とする電卓のキー設計思想を応用した結果と言われています。サイズ感としては、当時のポケットコンピュータのキーボードを少し大きくした程度です。本体カラーは黒と赤の2種類があり、それぞれキーの色合いも異なります。さらに、特定の用途を示すために、キーは役割に応じて細かく色分けされていました。ソフトウェアによっては、キーボード上に専用のオーバーレイシートを取り付けて使用することも可能です。本体上部の左奥にはROMカートリッジを差し込むスロットがあり、その脇には「PV-7」の大きなロゴがデザインされています。スロットとロゴの右側には、本体の排熱を促すための複数の溝が刻まれています。
入力装置
多くのMSXマシンでカーソルキーが配置される場所には、PV-7では八角形の「ジョイパッド」が採用されています。また、本体左下隅には2つのトリガーキーが備わっています。これは開発チームが、当時のゲーム機市場をリードしていたファミリーコンピュータを強く意識し、ゲーム機としてのMSXというコンセプトに基づいて設計されたものです。これらの入力機器はゲームでの使用を想定しているため、一般的なキーボードのキーに比べて耐久性が高められています。ただし、このジョイパッドの入力はシステム上ジョイスティックの操作として処理されるため、BASIC画面などで一般的なカーソルキーのようにカーソルを移動させることはできません。本来のカーソルキー機能は、十字型ではなく横一列に4つのキーが並ぶ特殊な配置となっており、ソフトによっては操作性に難を感じる場合もありました。
スペック詳細
PV-7はMSX1規格に準拠し、メインRAM容量は最低基準の8KBです。しかし、別売のオプションを使用することでRAM容量を拡張することが可能です。専用の拡張ボックスやRAM増設カートリッジを利用すれば、最大64KBまで増設でき、さらにメモリマッパーRAMに対応した拡張により64KBを超える容量も扱えます。また、他のMSX1機種と同様に、拡張ボックスを通じてMSX2規格に対応するバージョンアップアダプタと追加メモリを接続することで、MSX2としての機能を持たせることも理論上は可能でした。ただし、本体側のROMカートリッジスロットは音声入力信号に対応していないため、コナミのSCC音源やFM-PACなどの拡張音源を搭載したカートリッジの音を本体から出力することはできませんでした。外部のデータレコーダーを接続してプログラムやデータをロード・セーブする際には、別売のカセットインターフェースユニットが必要でした。キーボードのかな表記は五十音順配列です。本体寸法は幅307mm、奥行き210mm、高さ49mmで、重量は約1.56kgです。
主要なオプション製品
PV-7のために、様々なオプション製品が用意されていました。以下にその一部を挙げます。
KB-7: 拡張ボックス。RAMを16KBに拡張し、スロット数を合計3つに増加、プリンターI/Fも追加。電源内蔵。
FA-32: カセットインターフェース。データレコーダー接続用。
OR-208, OR-216, OR-264: RAM増設カートリッジ。それぞれ16KB、32KB、64KBに拡張可能。OR-208は本体単体用。
これらの他、カシオ以外のMSXでも利用可能なオプションとして、ジョイスティックのTJ-7、タッチパネルのTP-7、データレコーダーのKR-7、カラープリンターのCP-7、クイックディスクドライブのQD-7、そしてワープロユニットのMW-24など、多岐にわたる周辺機器が存在しました。
関連ソフトウェア
カシオ計算機はPV-7を含む自社製MSX向けに、オリジナルのゲームや教育ソフトなどをリリースしました。これらのソフトウェアの中には、前身機であるPV-2000向けに登場した同名のタイトルがMSX向けに移植されたものも含まれていました。
イメージキャラクター
PV-7のテレビコマーシャルには、タレントの佐倉しおりさんがイメージキャラクターとして起用され、その親しみやすさをアピールしました。また、PV-7に付属するマニュアルは、バーネットおばさんという架空のピアノ教師がユーザーを案内するという独特のスタイルで書かれており、キャラクター設定が活用されていました。後継機種の広告やCMでは、山田邦子さんが起用されています。
後続機種
PV-7のコンセプトは、その後カシオから発売されたMSX機種にも引き継がれました。
PV-16: 1985年発売。同価格でRAM 16KB、カセットI/F内蔵。外観はPV-7とほぼ同一。
MX-10: 1986年発売。小型化し19,800円を実現。キーボードは軟質ゴム製に。
MX-101: 1986年11月発売。MX-10ベースにRF出力をワイヤレス送信可能化。カスタムLSI搭載。
これらの後続機種はいずれも、PV-7が確立した「安価なゲーム機としてのMSX」という基本コンセプトを継承しており、ジョイパッドとトリガーキーを備えている点が共通しています。
その他
著名なエピソードとしては、インターネット黎明期の掲示板サイト「2ちゃんねる」開設者である西村博之氏が、小学生時代に初めて買ってもらったパソコンがこのPV-7であったことを公言しています。PV-7は、多くの子供たちにとって、パソコンやプログラミング、そしてゲームの世界への最初の入り口となった一台でした。
価格戦略と開発背景
PV-7が発売された1984年当時、MSX規格のコンピュータは通常5万円以上の価格帯で販売されていました。これに対し、カシオは29,800円という、ほぼ半額に近い価格での提供を実現します。開発の背景には、家庭用ゲーム機であるファミリーコンピュータに対抗可能な価格帯、具体的には19,800円を目指す野心的な目標がありました。カシオが長年培ってきた電卓製造のノウハウを活かし、コスト削減のため基板を片面化するなど、徹底した合理化が図られました。最終的な価格は目標には届かなかったものの、3万円を切る価格を実現し、消費者にとって手の届きやすい存在となりました。
スペックと機能の制約
低価格化の代償として、PV-7の仕様は一部で制約を受けました。メインRAMはMSX規格で許容される最低限の8KBに抑えられ、カートリッジスロットも本体に1つのみという実装です。この限られたRAM容量では、本体内蔵のBASIC言語で動作する多くのソフトウェアの利用は難しく、また、文字入力がかろうじて可能なサイズのキーボードも相まって、その主な用途はROMカートリッジ形式で提供されるゲームタイトルへと自然に集中しました。PV-7は、カシオが前年に発売した独自規格のパソコン「PV-2000」の後継という位置付けでもあり、PV-2000から受け継がれた独立したトリガーキーなどは、このゲーム機としての性格を強調しています。PV-2000向けにリリースされたゲームの一部は、MSX向けに移植され、PV-7でも楽しまれました。
市場での評価と影響
スペックの制約にもかかわらず、PV-7は市場で非常に好調な売れ行きを示しました。特にクリスマス商戦では家電量販店の店頭に文字通り山積みされ、営業担当者から喜びの声が上がったと開発に携わった人々は回想しています。しかし、このカシオによる低価格攻勢は、PV-7だけでなく後続機も含め、MSX市場全体に大きな影響を与えました。価格競争が激化し、製品単価が下落した結果、多くの家電メーカーにとってMSX事業の採算が悪化。これが要因の一つとなり、市場から撤退するメーカーが相次ぎました。MSX規格の提唱者として知られる西和彦氏は、後に自身の著書の中で「カシオの値下げによって、他の多くのメーカーのMSXは事実上市場から姿を消したも同然だった。愕然とした。」という趣旨のコメントを残しており、その影響の大きさを物語っています。
外観の特徴
PV-7の本体は平たい長方形のデザインで、特徴的なキーボードが配置されています。キー間隔が広く取られたこのキーボードは、高度なタッチタイプを想定せず、カシオが得意とする電卓のキー設計思想を応用した結果と言われています。サイズ感としては、当時のポケットコンピュータのキーボードを少し大きくした程度です。本体カラーは黒と赤の2種類があり、それぞれキーの色合いも異なります。さらに、特定の用途を示すために、キーは役割に応じて細かく色分けされていました。ソフトウェアによっては、キーボード上に専用のオーバーレイシートを取り付けて使用することも可能です。本体上部の左奥にはROMカートリッジを差し込むスロットがあり、その脇には「PV-7」の大きなロゴがデザインされています。スロットとロゴの右側には、本体の排熱を促すための複数の溝が刻まれています。
入力装置
多くのMSXマシンでカーソルキーが配置される場所には、PV-7では八角形の「ジョイパッド」が採用されています。また、本体左下隅には2つのトリガーキーが備わっています。これは開発チームが、当時のゲーム機市場をリードしていたファミリーコンピュータを強く意識し、ゲーム機としてのMSXというコンセプトに基づいて設計されたものです。これらの入力機器はゲームでの使用を想定しているため、一般的なキーボードのキーに比べて耐久性が高められています。ただし、このジョイパッドの入力はシステム上ジョイスティックの操作として処理されるため、BASIC画面などで一般的なカーソルキーのようにカーソルを移動させることはできません。本来のカーソルキー機能は、十字型ではなく横一列に4つのキーが並ぶ特殊な配置となっており、ソフトによっては操作性に難を感じる場合もありました。
スペック詳細
PV-7はMSX1規格に準拠し、メインRAM容量は最低基準の8KBです。しかし、別売のオプションを使用することでRAM容量を拡張することが可能です。専用の拡張ボックスやRAM増設カートリッジを利用すれば、最大64KBまで増設でき、さらにメモリマッパーRAMに対応した拡張により64KBを超える容量も扱えます。また、他のMSX1機種と同様に、拡張ボックスを通じてMSX2規格に対応するバージョンアップアダプタと追加メモリを接続することで、MSX2としての機能を持たせることも理論上は可能でした。ただし、本体側のROMカートリッジスロットは音声入力信号に対応していないため、コナミのSCC音源やFM-PACなどの拡張音源を搭載したカートリッジの音を本体から出力することはできませんでした。外部のデータレコーダーを接続してプログラムやデータをロード・セーブする際には、別売のカセットインターフェースユニットが必要でした。キーボードのかな表記は五十音順配列です。本体寸法は幅307mm、奥行き210mm、高さ49mmで、重量は約1.56kgです。
主要なオプション製品
PV-7のために、様々なオプション製品が用意されていました。以下にその一部を挙げます。
KB-7: 拡張ボックス。RAMを16KBに拡張し、スロット数を合計3つに増加、プリンターI/Fも追加。電源内蔵。
FA-32: カセットインターフェース。データレコーダー接続用。
OR-208, OR-216, OR-264: RAM増設カートリッジ。それぞれ16KB、32KB、64KBに拡張可能。OR-208は本体単体用。
これらの他、カシオ以外のMSXでも利用可能なオプションとして、ジョイスティックのTJ-7、タッチパネルのTP-7、データレコーダーのKR-7、カラープリンターのCP-7、クイックディスクドライブのQD-7、そしてワープロユニットのMW-24など、多岐にわたる周辺機器が存在しました。
関連ソフトウェア
カシオ計算機はPV-7を含む自社製MSX向けに、オリジナルのゲームや教育ソフトなどをリリースしました。これらのソフトウェアの中には、前身機であるPV-2000向けに登場した同名のタイトルがMSX向けに移植されたものも含まれていました。
イメージキャラクター
PV-7のテレビコマーシャルには、タレントの佐倉しおりさんがイメージキャラクターとして起用され、その親しみやすさをアピールしました。また、PV-7に付属するマニュアルは、バーネットおばさんという架空のピアノ教師がユーザーを案内するという独特のスタイルで書かれており、キャラクター設定が活用されていました。後継機種の広告やCMでは、山田邦子さんが起用されています。
後続機種
PV-7のコンセプトは、その後カシオから発売されたMSX機種にも引き継がれました。
PV-16: 1985年発売。同価格でRAM 16KB、カセットI/F内蔵。外観はPV-7とほぼ同一。
MX-10: 1986年発売。小型化し19,800円を実現。キーボードは軟質ゴム製に。
MX-101: 1986年11月発売。MX-10ベースにRF出力をワイヤレス送信可能化。カスタムLSI搭載。
これらの後続機種はいずれも、PV-7が確立した「安価なゲーム機としてのMSX」という基本コンセプトを継承しており、ジョイパッドとトリガーキーを備えている点が共通しています。
その他
著名なエピソードとしては、インターネット黎明期の掲示板サイト「2ちゃんねる」開設者である西村博之氏が、小学生時代に初めて買ってもらったパソコンがこのPV-7であったことを公言しています。PV-7は、多くの子供たちにとって、パソコンやプログラミング、そしてゲームの世界への最初の入り口となった一台でした。
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