Power over Ethernet

Power over Ethernet (PoE) について

Power over Ethernet（PoE）は、イーサネットケーブルを通じてデータ通信と電力供給を同時に行うことができる技術です。この技術により、ネットワーク機器の設置場所の自由度が向上し、電源コンセントの設置が難しい場所でも機器の利用が可能になります。

PoEの概要

PoEは、主にWebカメラ、スイッチングハブ、無線LANアクセスポイント、IP電話機などの比較的小さな電力を消費する機器への電力供給に利用されています。2003年6月にIEEE 802.3afとして標準化され、その後、より高い電力供給を可能にする拡張規格としてIEEE 802.3at-2009（PoE+）やIEEE 802.3bt-2018（PoE++）が策定されています。これらの規格は下位互換性があり、新しい規格に対応した機器は古い規格の機器とも接続可能です。

PoEシステムでは、電力供給を行う機器を「PSE (Power Sourcing Equipment)」、電力供給を受ける機器を「PD (Powered Device)」と呼びます。PoEを利用するには、基本的にPSEとPDの両方がPoEに対応している必要がありますが、PoEインジェクタや受電ユニットなどの外部機器を使用することで、PoE非対応の機器でも電力供給を受けることが可能です。

PoE運用上の注意点

PoEを使用する際には、いくつかの注意点があります。

LANケーブルの対応: 使用するLANケーブルが電流の印加に対応している必要があります。少なくともJIS C 5150-1またはISO/IEC TS 29125の規格を満たすケーブルを使用してください。古いLANケーブルは電流印加を想定していないため、使用すると事故につながる可能性があります。
ケーブルの敷設: LANケーブルはISO/IEC 14763-3(JIS X 5151)に基づき敷設する必要があります。電流印加時の温度上昇を考慮し、冷却可能な場所に敷設し、シールド付きケーブル（フィルタ付きケーブル）の使用を推奨します。
活線挿抜の禁止: 活線挿抜は、接合部での放電による火花発生のリスクがあり、機器の故障につながる可能性があります。PoE対応のコネクタを使用し、活線挿抜は避けるべきです。イーサネット自体も活線挿抜を積極的に推奨していません。
回路保護: PoE規格には回路保護が規定されておらず、異常電圧発生時に機器が損傷する可能性があります。保護素子の追加は消費電力の増加や通信速度の低下につながるため、製品選択の際には注意が必要です。特に、屋外で使用する場合や屋外からケーブルを引き込む場合は、雷サージによる被害を考慮する必要があります。
接地: 日本では、電力線（強電流回路）と信号線（弱電流回路）が区別されています。信号線はTT接地が標準であるため、等電位ボンディングが難しく、PoE機器を含む通信機器が故障しやすい環境にあります。

発熱管理

ツイストペアケーブルは、本来、信号伝送のために設計されており、電線には細い撚り対線が使用されています。そのため、大きな電力を長距離で流す場合には、ケーブルの品質管理、配線管理、および電力供給計画の見直しが必要となることがあります。

ケーブルが発熱すると電気抵抗が増加し、イーサネット規格で規定されるケーブル長まで信号が届かなくなることがあります。特にケーブルを束ねて使用すると、発熱は顕著になります。また、PoE対応として販売されているケーブルの中には、規格には準拠しているものの、電力線としての安全基準に関する試験が十分に行われていないものや、安全基準が明記されていないものもあるため注意が必要です。

標準規格の実装

PoEの標準規格は、IEEE 802.3af, IEEE 802.3at, IEEE 802.3btで規定されています。以下にこれらの規格の概要を説明します。

給電タイプ

供給する電力の大きさに応じて、タイプ1からタイプ4までが規定されています。

給電クラス

PSEは、接続機器のシグネチャ抵抗によりPDが接続されたことを検出します。PDは、自身の要求電力を分類電流としてPSEに通知します。PSEはこれに基づいてクラスを分類し、要求電力に合わせて給電を開始します。タイプ3以上では、2段階にわたって通知が行われます。

タイプ2からタイプ4では、LLDPを使用した要求電力の通知も利用可能で、0.1W単位での給電制御が可能です。

ケーブル給電ピン

ツイストペアケーブルの8ピンのうち、給電に使用されるピンによって、次の3つの方式が規定されています。

Type A: 1-2, 3-6ピンを使用
Type B: 4-5, 7-8ピンを使用
Type C: 1-2, 3-6, 4-5, 7-8ピンを使用

給電ピンの選択は歴史的な経緯によるもので、いずれの方式でも10BASE-Tから10GBASE-Tまでのイーサネット規格で利用可能です。PSEはいずれかの方式をサポートしていれば良いですが、PDは少なくともType AとType Bの両方から受電できることが求められます。

非標準規格の実装

シスコシステムズは、2011年にUniversal Power Over Ethernet (UPoE) を発表し、2014年に実装しました。UPoEは、1ポートの4ペアすべてを給電に使用し、最大60Wの電力供給を可能にしています。

まとめ

PoEは、データ通信と電力供給を同時に行う便利な技術ですが、使用にあたっては規格、運用上の注意点、および発熱管理に留意する必要があります。適切な知識と対策を行うことで、安全かつ効率的にPoEを活用することができます。

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