R38 (飛行船)

R38：巨大飛行船の悲劇

R38は第一次世界大戦末期にイギリス海軍向けに建造された硬式飛行船です。当初は北海での哨戒任務を想定していましたが、完成前にアメリカ海軍に売却されることになりました。しかし、引き渡し前の試験飛行中に墜落し、多くの犠牲者を出す悲劇に見舞われました。

開発の背景

イギリス海軍は、基地から遠く離れた海域での長期間にわたる哨戒任務を可能にする飛行船を求めていました。R38級は、その要求に応えるために設計され、偵察だけでなく、水上艦艇の護衛任務も考慮した大きな武器搭載量も設定されていました。

ショート・ブラザーズが建造契約を獲得し、同型3隻の追加発注も行われました。しかし、第一次世界大戦の終結により、R39以降の3隻はキャンセルされ、R38のみが建造続行となりました。その後、アメリカ海軍が購入の意思を示したため、プロジェクトは継続されることになりました。

アメリカ海軍は、ドイツの賠償としてツェッペリン飛行船を獲得することを当初考えていましたが、ドイツの乗組員によって意図的に破壊されてしまいました。そこで、R38の購入を決断し、1919年10月に正式に契約が締結されました。

設計上の課題

R38の建造は、既存のハンガーに合わせて設計を変更する必要がありました。動力ゴンドラの配置や気嚢の数が変更され、船体構造にも影響を与えました。また、アメリカ海軍の要求により、係留塔への係留装置が船首に追加されましたが、この変更は船体の縦方向の強度に悪影響を及ぼす可能性がありました。

ドイツは軽量の高高度飛行船を建造していましたが、その構造は機動性、特に急激な方向転換に制限があることが指摘されていました。R38も軽量化を重視した設計でしたが、そのことが後の悲劇につながることになります。

悲劇的な結末

R38は1921年6月23日に初飛行を行いました。アメリカ海軍での呼称である「ZR-2」の塗装が施され、7月には2回目の試験飛行で耐空性試験と受領試験が行われました。しかし、試験中に激しいピッチングが記録され、格納庫での構造検査で桁構造に損傷が見つかりました。

修理と補強が行われた後、8月23日に4回目の試験飛行が行われました。しかし、ハル市上空で方向舵の試験中に、船体に皺が発生し、火災と爆発が発生しました。飛行船は崩壊し、ハンバー川に墜落し、乗員49名のうち44名が死亡するという大惨事となりました。これは、有名なヒンデンブルク号爆発事故よりも多い犠牲者数でした。

事故原因の究明

事故調査委員会は、空気力学的ストレスに対する余裕のない設計と、通常の飛行では生じないような荷重をかけた試験が行われたことが原因であると結論付けました。機動操作が船体を弱めた可能性も指摘されました。

この事故は、飛行船の設計と運用における安全性の重要性を改めて認識させるものとなりました。R38の悲劇は、その後の飛行船開発に大きな影響を与え、より安全な設計と運用方法の開発につながりました。

R38の事故現場には記念碑が建てられ、犠牲者を追悼しています。

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