RARITIES (山下達郎のアルバム)

山下達郎『RARITIES』：秘蔵音源集による新たなベストアルバム

2002年10月30日、山下達郎の通算3作目のベストアルバム『RARITIES』がリリースされました。前作のベスト盤『TREASURES』から7年ぶり、アルバムとしては『ON THE STREET CORNER 3』から3年の歳月を経ての発表となりました。

このアルバムの制作背景には、山下達郎自身の音楽に対する強いこだわりと、ファンへの責任感がありました。ソロデビュー以来、アルバム制作を主体としてきた山下達郎にとって、シングルはあくまでアルバムへの補足的な存在でした。しかし、長年のキャリアの中で、様々な理由からアルバム未収録となった楽曲が数多く存在していたのです。特にシングル曲のカップリング曲や、アルバム制作途中で完成しながら日の目を見なかった楽曲などが、多く眠っていました。

『RARITIES』は、そうした「レア音源」をまとめた作品として企画されました。しかし、単なる過去の楽曲集にはしたくなかった山下達郎は、このアルバムのために既存の楽曲を再録・リミックスしたり、このアルバムリリース以前に発表されたシングル曲も収録するなど、新しい試みも取り入れました。

具体的には、シングル曲のカップリング曲、未発表のセルフカバー、未発表の洋楽カバー、そして「スプリンクラー」のロングバージョンなどが収録されています。当初はライブバージョンも収録予定でしたが、時間の都合上、「潮騒」以外はカットされました。（これらのライブバージョンは、後日発売された『Ray Of Hope』初回盤のボーナスCD『Joy 1.5』に収録）

アルバム制作にあたって山下達郎は、過去の楽曲を聴き直すことにためらいを感じていたと言います。過去の作品を聴くと、修正したくなってしまうためです。しかし、最終的には多くの楽曲でリミックスや再録音を行い、多くの楽曲が生まれ変わりました。例えば、「TO WAIT FOR LOVE」は未発表曲でしたが、このアルバムのために完全に作り直されました。他の楽曲も、楽器の差し替えやボーカルの調整など、細部に至るまで手を加えられています。

この短期間での制作を可能にした要因として、山下達郎は自身のレコーディングスタジオ「プラネット・キングダム」の環境の変化を挙げています。新しいSSLのミキシングコンソール導入により、作業効率が飛躍的に向上したのです。長年の投資が実を結んだ瞬間だったと言えるでしょう。

『RARITIES』が単なるレア音源集ではなく、普遍性と時代性を兼ね備えた作品になったのは、山下達郎の音楽への強い「愛着と責任感」によるものです。彼は、自分の作品を「自己表現」と捉え、継続的に作品を世に送り出し続けることに強い責任を感じていると語っています。また、廃盤になるシングル作品を保存し、多くの人に聴いてもらい続けるという強い意志も、このアルバム制作の原動力となりました。

アルバムのプロモーションにおいても、山下達郎のこだわりは感じられます。当初レコード会社から提案された「レアタツ」という仮タイトルを却下し、「RARITIES」というタイトルを採用。「レアタツ」はキャッチコピーとして使用されました。お台場での記念イベントなども行われ、発売前から大きな注目を集めました。

ジャケットデザインは、レトロ感を避けつつ、カルトでポップな雰囲気に仕上げられています。使用されているグッズ類はカスタムメイドで、配置に至るまで山下の意向が反映されています。写真撮影は伊島薫氏が担当。一見見えない部分にもこだわりが見られます。初回盤には「オリジナル・カラオケ・スペシャルCD」が付属していました。

『RARITIES』に収録されている楽曲は、山下達郎の音楽キャリアの幅広さと深さを示す、珠玉の選曲となっています。それぞれの楽曲には、制作秘話や当時の情景が語られ、単なる音楽鑑賞を超えた、より深い感動を与えてくれる作品と言えるでしょう。

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