RD-0236

RD-0236

RD-0236は、旧ソビエト連邦およびその後のロシア連邦で開発された液体燃料ロケットエンジンの一つです。GRAUインデックスでは15D114という名称でも知られています。このエンジンは、単独で大きな推力を得るためのものではなく、ロケットやミサイルの飛行中に精密な姿勢制御や軌道修正を行うことを目的とした「バーニアエンジン」として設計されています。

エンジンの構造と推進剤

RD-0236は、酸化剤として四酸化二窒素（N2O4）、燃料として非対称ジメチルヒドラジン（UDMH）という二液体の組み合わせを推進剤として使用します。これらの推進剤は、混合すると自然に燃焼を開始する「自己着火性」を持つため、点火装置が不要でシステムの信頼性向上に寄与します。また、常温で長期間貯蔵が可能な「貯蔵可能液体推進剤」であるため、即応性が求められるミサイルシステムに適しています。ただし、これらの推進剤は共に極めて毒性が強く、取り扱いには厳重な注意が必要です。

RD-0236は、推進剤供給システムとしてガス発生器サイクルを採用しています。この方式では、主燃焼室で燃焼させる推進剤の一部を取り出して、専用のガス発生器で燃焼させ、高温高圧のガスを生成します。このガスを用いてタービンを回し、燃料ポンプや酸化剤ポンプを駆動して主燃焼室へ推進剤を供給します。構造が比較的シンプルで堅牢であるため、信頼性が高いという利点がありますが、タービン駆動ガスとして燃焼させた推進剤が大気中などに排出されるため、全ての推進剤を推力生成に利用する二段燃焼サイクルなどに比べると、理論上の効率（比推力）はやや劣ります。しかし、バーニアエンジンに求められるのは、高い効率よりも精密な制御能力と信頼性であるため、ガス発生器サイクルは理にかなった選択と言えます。

推力制御システム

RD-0236エンジンの最大の特徴の一つは、その高度な推力偏向制御システムにあります。このエンジンは単一のノズルではなく、複数のノズルを備えており、inputの情報によれば4基のノズルを持っています。それぞれのノズルは、ジンバル機構を介してエンジン本体に取り付けられています。ジンバル機構は、関節のように可動する部分で、ノズルを平面内で傾けることが可能です。この機構により、それぞれのノズルから噴出される推力の方向を独立して、あるいは協調して変化させることができます。

このような推力偏向能力を持つことで、RD-0236はロケットやミサイルの飛行姿勢（ピッチ、ヨー、ロール）を能動的に制御することができます。特に、主エンジンが停止した後や、軌道修正のために小さな推力を精密に調整する必要がある場面で、バーニアエンジンは重要な役割を果たします。4基のノズルを個別に制御することで、非常に細かい姿勢制御や、目標軌道への正確な誘導を実現します。

使用された主要なロケット/ミサイル

RD-0236エンジンは、主に旧ソビエト連邦が開発した第二世代の大陸間弾道ミサイル（ICBM）であるUR-100UTTKh（GRAUインデックス15A35）の第2段ロケットに搭載されました。UR-100UTTKhの第2段推進モジュールでは、RD-0236はより大型のRD-0235主エンジンと組み合わせて使用されました。RD-0235が主に第2段の速度を増加させる推力を担う一方、RD-0236は第2段燃焼中の姿勢の安定化や、燃焼終了後の弾道制御、そしてペイロードの最終的な軌道投入精度を高めるための微調整を担いました。

生産状況と現在の運用

RD-0236エンジンの新規生産は既に終了しています。しかし、UR-100Nファミリーのミサイルが戦略兵器としての役目を終えた後、その多くが宇宙打ち上げ機として平和利用のために転用されました。これらの転用された打ち上げ機においても、RD-0236エンジンを含む既存の推進システムが引き続き利用されています。具体的には、UR-100Nを基に開発された「ロコット」および「ストレラ」といった宇宙打ち上げ機において、2015年時点でもRD-0236が運用されていることが確認されています。これは、退役したミサイルの構成要素を再利用することで、新たな打ち上げ機を開発するよりも大幅にコストを削減できるという利点があるためです。ロコットやストレラは、主に小型から中型の人工衛星を地球低軌道に投入するために使用されていました。

関連項目

• - UR-100N: RD-0236エンジンが使用されたUR-100UTTKhを含む、旧ソ連/ロシアのICBMファミリー。
• - ロコット: UR-100Nミサイルを改造して開発された宇宙打ち上げ機。
• - ストレラ: ロコットと同様に、UR-100Nを改造して開発された宇宙打ち上げ機。
• - 液体燃料を使用したロケットエンジン: RD-0236が属するエンジンの種類。

このエンジンは、その設計思想と運用実績から、ミサイル技術を宇宙開発に転用する上で重要な役割を果たした推進システムの一つと言えます。

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