RD-58

RD-58液体燃料ロケットエンジン

RD-58（製造品番 11D58）は、ソビエト連邦の宇宙開発黎明期、1960年代にコロリョフ設計局（現在のRKK エネルギア）によって開発された液体燃料ロケットエンジンです。このエンジンは、史上初の二段燃焼サイクルを採用したエンジンであるS1.5400の設計思想を受け継ぎ、ミハイル・メルニコフの指導のもと、ソビエトの有人月探査計画で使用される巨大ロケットN-1の5段目「ブロックD」の推進機関として開発されました。

現在に至るまで、ブロックDおよびその派生型は、プロトンやゼニットといったソビエト/ロシアの主要なローンチ・ヴィークルに搭載され続けており、RD-58系エンジンはこれらのロケットの上段エンジンとして重要な役割を担っています。N-1ロケットの4号機においては、RD-58の派生型が姿勢制御用エンジンとしても使用されました。この派生型は、主エンジンのRD-58とは異なり、短縮されたノズルと変更された燃焼室を備え、ロール方向の姿勢を制御するために用いられています。

RD-58は、酸化剤として液体酸素、燃料としてRG-1（ロケットケロシン）を使用する、高効率な二段燃焼サイクルエンジンです。エンジンの主要構成要素は、一方向に傾斜可能なジンバル機構に取り付けられた燃焼室、推進剤を供給するための垂直型遠心ポンプ、それを補助するブースターポンプ、そして酸化剤をリッチなガスに変換するガス発生器から成り立っています。近年の改良型では、NPO Iskraが開発した軽量な炭素繊維強化炭素複合材料製の伸展式ノズルが採用されており、エンジンの性能向上に貢献しています。

RD-58エンジンファミリーは、長年にわたる運用と改良を経て、多様な派生型を生み出してきました。その中でも代表的なものをいくつか挙げます。

RD-58 (11D58): N-1ロケットのブロックD用に開発された最初の型式であり、RD-58シリーズの原型機です。
RD-58M (11D58M): プロトンロケットのブロックDで使用されるために性能が向上された派生型です。
RD-58M（炭素繊維強化炭素複合材料製ノズル型）: ゼニット-3SLロケットのブロック DM-SLに搭載されたRD-58Mの派生型です。2003年以降の打ち上げで使用され、従来の再生冷却ノズルに代わってNPO Iskra製の炭素複合材製伸展ノズルが採用されました。
17D12: ブラン宇宙往還機の主軌道修正エンジン（DOM）として使用された型式です。RD-58Mの発展型と位置づけられ、燃料にはRG-1ではなくシンチンを使用し、最大15回の再着火能力を備えています。このエンジンは、後に開発されるRD-58Sの設計における重要な原型となりました。
RD-58S (11D58S): 17D12を基に開発された派生型で、ブロックDM-2Mに搭載されます。推進剤として、RG-1よりも高い性能を発揮可能なシンチンと液体酸素の組み合わせを使用します。
RD-58Z (11D58Z): ゼニットロケットのブロックDM-SLに搭載される派生型の一つです。
* RD-58MF (11D58MF): プロトンおよびゼニットロケットのブロックDM-03で使用されることを目指して開発が進められている最新の派生型です。この型式は比推力の向上を主眼としており、全長を維持するために推力は49.03キロニュートン（約11,020 lbf）に抑えられています。その代わり、ノズルの膨張比を500:1に大幅に高めることで、比推力を推定で約20秒（合計約372秒）改善しています。RD-58Mと同様に、炭素繊維複合材製伸展ノズルを備える見込みです。RD-58MFはクラスノヤルスク機械製造工場で製造されています。2014年11月の時点では、ブロックDMの製造は一時中断されるものの、RD-58MFの開発自体は2015年に再開される予定だと、製造工場の関係者が述べていました。

RD-58系エンジンは、ソビエト/ロシアの宇宙開発において、上段エンジンとして長年にわたり信頼性の高い性能を提供し続けている、極めて重要な液体燃料ロケットエンジンの一つと言えます。その多様な派生型は、様々なミッションやロケットの要求に応える形で進化を遂げてきました。

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