REAL (一風堂のアルバム)

一風堂『REAL』：ベルリンで生まれた革新的なサウンド

1980年9月21日にリリースされた一風堂の2枚目のオリジナルアルバム『REAL』は、前作『NORMAL』からわずか半年という短い期間で発表されました。本作の最大の特徴は、ドイツ・ベルリンでのレコーディングという、当時としては異例の試みが行われたことです。

ベルリンでの異例のレコーディング

一風堂は、デヴィッド・ボウイが使用したスタジオで、ラ・デュッセルドルフのような音楽を制作するというコンセプトのもと、ベルリンでのレコーディングを敢行しました。この背景には、土屋昌巳が東京の雑多な環境から離れ、孤立した状態で作品を制作したいという意図がありました。また、デヴィッド・ボウイやイギー・ポップへの憧憬も、ベルリンを選んだ理由の一つでした。

レコーディングは、現地のスタッフが最初に「どういう音にしたいのか？」を問いかけ、エコーや音色を決定してから作業に取り掛かるという、論理的な段取りで行われました。この経験は、それまで音を加工するのではなく、最初から構築的に録音を行うという、土屋にとって新たな発見となりました。

使用されたスタジオは、体育館のように広い空間で、ヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮をしていた場所でした。また、デヴィッド・ボウイの『ロウ』や『ヒーローズ』もここで録音されたという歴史的な場所でした。ルームエコーが強くかかるこのスタジオで、土屋はギターアンプを外に出してレコーディングするなど、特殊な音作りを試みました。

多様な音楽ジャンルと独自の世界観

『REAL』は、ジャーマン・ロック、レゲエ、ダブ、ロカビリーなど、多種多様な音楽ジャンルが融合した作品です。土屋は、これが自身のニュー・ウェイヴの解釈であると述べています。歌詞は、時代の危機意識とペシミスティックな内容で構成されており、土屋自身も当時鬱状態だったのではないかと語っています。

また、パンク・ロックの影響も受けていますが、ロンドンパンクよりもテレヴィジョンなどのニューヨークパンクからの影響が強いと土屋は述べています。1970年代のフュージョン偏重の流れを忌避し、パンク・ロックの素朴さやクラフトワークの単音の魅力に触れた結果、それまでのテクニックを放棄したというエピソードからも、土屋の音楽的な変革への意欲が伺えます。

本作の戦略について土屋は、「僕らはこういうことをやっちゃう、ちょっとヘンな奴なんだよ」という部分を明確にしたことだと述べています。前作よりも実験的な要素が強く、レコード会社や事務所の意向とは異なる方向性を示したことからも、一風堂の音楽的な独立心が伺えます。

アルバムに込められたメッセージ

土屋は、「ボウイがやったスタジオでデュッセルドルフをやれればいいな」という考えで本作を制作したと語っています。アルバムはコンセプト・アルバムのような構成になっており、曲順にも意図が込められています。土屋はアナログ・レコード時代にはA面/B面|A面_B面という概念が存在したため、章立てで物語を制作しやすい環境であったと述べています。しかし、CDの登場により曲順を自由に変更できるようになったため、かつてのようなドラマ感が失われたとも主張しています。

リリースとツアー

アルバムのリリースと前後して、「メタル・ポップ・レヴュー」と題したライブツアーが行われました。ステージ上にはテレビ受信機が設置され、曲によってはミュージック・ビデオのようなイメージビデオが放映されるなど、視覚的にも楽しめる演出が施されていました。これらの映像はすべて土屋を中心としたスタッフによる手作りのもので、映画『2001年宇宙の旅』の映像なども使用されていました。

批評と影響

本作は、音楽評論家からも肯定的な評価を受けています。特に「ジャーマン・ロード」は、クラフトワークなどの影響を指摘されつつも、土屋独自の解釈によるジャーマン・ロックの様式を表現した曲として評価されました。

まとめ

一風堂の『REAL』は、ベルリンでの異例のレコーディング、多様な音楽ジャンルの融合、そして時代の危機感を反映した歌詞など、様々な要素が組み合わさった革新的な作品です。土屋昌巳の音楽的な探求と、当時の音楽シーンに対する反骨精神が、このアルバムを唯一無二のものにしています。

もう一度検索