RIDE ON TIME (山下達郎のアルバム)

山下達郎『RIDE ON TIME』：音楽的転換期と新たなパートナーシップ

1980年9月19日にリリースされた山下達郎5作目のスタジオアルバム『RIDE ON TIME』は、彼の音楽キャリアにおいて重要な転換点となった作品です。このアルバムは単なる楽曲の集積ではなく、ミュージシャンとしての山下達郎の成長と、新たな音楽的可能性を切り開いた証と言えるでしょう。

青山純、伊藤広規との出会い

『RIDE ON TIME』制作の背景には、ドラマー青山純氏とベーシスト伊藤広規氏との出会いが大きく影響しています。1979年夏、吉田美奈子さんのライブに参加した山下達郎氏は、そこで青山氏を紹介されます。オーディションを兼ねたセッションで、二人は山下の楽曲を次々と演奏していきました。その過程で、様々な音楽性を試す山下の意図と、若手ながら高い演奏技術と柔軟性を持つ青山氏と伊藤氏の才能が合致。この出会いが、山下の音楽活動に大きな変化をもたらすことになります。

それまでの山下達郎氏は、楽曲のスタイルに合わせて様々なミュージシャンとセッションを行ってきましたが、青山氏と伊藤氏との出会いは、彼にとって初めて固定メンバーとして共に活動を続けるパートナーを見つけた瞬間でした。どんなスタイルの楽曲にも対応できる彼らの高い演奏力は、ライブレパートリーの飛躍的な増加へと繋がりました。これは、シュガー・ベイブ時代からの彼の理想であった、幅広い音楽性をライブで表現できる体制の構築を意味していました。

このセッション後、青山氏と伊藤氏は1979年末から山下のライブバンドの正式メンバーとなり、翌年にはレコーディングメンバーにも参加。難波弘之氏と椎名和夫氏と共に、レコーディングとライブの両方を担う固定メンバーが初めて完成しました。スタジオでのレコーディング作業も、練習スタジオでパターンを練り上げ、それをスタジオに持ち込むという、綿密な準備と実践に基づくものへと変わっていきました。

「RIDE ON TIME」の大ヒットとアルバム制作

同時期にリリースされたシングル「RIDE ON TIME」は、大ヒットを記録します。これは山下達郎氏にとって初のヒット曲となり、アルバム『RIDE ON TIME』の制作にも大きく貢献しました。ヒットによる制作予算の増加は、以前には考えられなかったテイクやアレンジを試せる環境を作り出し、山下の音楽表現の幅を広げました。

しかし、この成功は必ずしもポジティブな面ばかりではありませんでした。芸能メディアの過剰な注目や圧力に直面した山下達郎氏は、アルバム制作において、商業的な成功よりも音楽的な完成度を重視する姿勢を明確にしました。その結果、完成したアルバムは「地味」という評価を受けることもありましたが、山下達郎自身は、この制作方針は正しかったと感じています。

アルバム『RIDE ON TIME』とその後

『RIDE ON TIME』は、前作『MOONGLOW』を延長線上とした音楽性を持つ一方で、制作体制、楽曲へのアプローチにおいて明確な変化を見せています。固定メンバーによる緻密な演奏、そして制作予算を気にせずに音楽制作に取り組めるようになったことで、山下の音楽表現は新たなステージへと進みます。

このアルバムは、1990年、2002年とリマスター版がリリースされ、未発表音源も収録されています。そして2023年には、RCA/AIR YEARS時代のアナログ盤全8タイトルのリマスターシリーズの一環として、アナログ盤とカセットテープで再リリースされ、オリコン週間アルバムランキングで5位を記録するなど、現在でも高い人気を誇る作品です。

『RIDE ON TIME』は、山下達郎の音楽キャリアにおける大きな転換期を示すだけでなく、音楽家としての成長、理想のパートナーシップの構築、そして自身の音楽性への揺るぎない信念を体現した、記念碑的な作品と言えるでしょう。

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