Sダクト

Sダクト（S-duct）

Sダクトは、航空機のジェットエンジンへと空気を導く吸気ダクトの一種であり、その名の通り特徴的なS字の曲線を描く形状を持っています。この方式は、特に胴体後部にエンジンを配置する設計において採用され、主に三発ジェット旅客機の中央エンジンや、ステルス性の高い戦闘機で見られます。

三発ジェット旅客機においては、Sダクトは中央エンジンの吸気口を機体後部上面、しばしば垂直尾翼の付け根付近に設け、そこからS字型に曲がりながら後方のエンジンへと空気を供給します。この構成は、航空機の後部に排気とエンジンを集中配置することを可能にし、特定の設計上の課題を解決しました。1962年にホーカー・シドレー・トライデントで初めて採用されて以降、ボーイング727やロッキードL-1011トライスターなど、多くの三発機に用いられました。

Sダクト方式の主な利点の一つは、代替の設計と比較して中央エンジンの整備アクセスを容易にできる点です。また、マクドネル・ダグラスDC-10やMD-11で採用された、エンジンを垂直尾翼に組み込むストレートスルー方式と比較して、Sダクトは機体後部の設計自由度を高め、垂直尾翼をより短く、方向舵を重心近くに配置することを可能にしました。ロッキードL-1011の開発においては、吸気ダクトの曲率を適切に設計することで、ストレートスルー方式に匹敵するエンジン性能を維持しつつ、機体の空虚重量削減にも貢献することが実証されています。

一方で、Sダクトは吸気ダクトに複雑な曲がりがあるため、空気の流れを整え、エンジンに安定した気流を供給するための高度な設計技術を要します。また、設計上の複雑さから製造コストが増加する傾向があります。

現代の大型旅客機では、エンジンの信頼性向上により三発機が主流から外れ、双発機が主流となりました。しかし、ビジネスジェットの分野では、ダッソー・ファルコン7Xやファルコン900などが現在もSダクトを採用する数少ない民間機として生産されています。これは、これらの機体が比較的出力の小さいエンジンを複数搭載する設計に適しており、さらに国際的な航空規制において、三発以上のエンジン配置が冗長性の観点から特定の高高度飛行場利用を可能にするというメリットがあるためです。

三発ジェット旅客機での採用は減少しましたが、Sダクトは戦闘機においても重要な役割を果たしています。特にステルス性の高い設計において、Sダクトはエンジン正面、特に回転するコンプレッサーやファンブレードをレーダー波から遮蔽する効果があります。ブレードは強力なレーダー反射源となるため、S字に湾曲したダクトによってこれを隠すことで、レーダー反射断面積（RCS）を低減し、敵レーダーからの探知されにくさを向上させます。戦闘機の場合、機動性のために高い迎角での飛行が多いため、吸気口は胴体下側やLERX（Leading Edge Root Extension）下部に配置されることが多く、高迎角時でも安定した吸気量を確保できるよう設計されます。

Sダクトを採用した主な航空機には以下のようなものがあります。

現在生産中の主なSダクト機

ダッソー ファルコン7X
ダッソー ファルコン900
ダッソー ラファール
ユーロファイター タイフーン
ロッキード・マーティン F-35 ライトニングII

生産が終了した主なSダクト機

ボーイング727
ダッソー ファルコン50
エピック ビクトリー
ホーカー・シドレー・トライデント
IAI ラビ（逆Sダクト）
ロッキード L-1011 トライスター
ロッキード・マーティン F-22 ラプター
ミコヤン プロジェクト1.44
ノースロップ・グラマン B-2 スピリット
ノースロップ YF-23（逆Sダクト）
ショート SC.1
スホーイ Su-47
ツポレフ Tu-154 / Tu-154M
* ヤコブレフ Yak-40 / Yak-42

このように、Sダクトは特定のエンジン配置やステルス性要求に応えるための吸気システムとして、航空機の設計において重要な技術の一つとなっています。

もう一度検索