SHGb02+14a

SHGb02+14aとは、地球外知的生命体探査（SETI）の取り組みの中で注目された、ある特定の電波源に付けられた名称である。この信号は当初、地球外知的生命体からのものである可能性が議論されたが、その後の詳細な観測と分析により、人工的な信号であるとは考えにくい特徴が複数明らかになった。

発見の経緯

SHGb02+14aは、分散コンピューティングプロジェクトであるSETI@home計画によって検出された数多くの電波源候補の一つである。SETI@homeは、プエルトリコにあるアレシボ天文台の観測データを利用し、世界中のボランティアのコンピューターを使って地球外文明からの信号の兆候を探すプロジェクトであった。

2003年3月、SETI@homeがこれまでに検出した数十億もの候補の中から、特に有望と見なされた約200の候補が改めて集中的に観測された。その大部分は再検出されず、信号である可能性が低いと判断されたが、SHGb02+14aは例外的に複数回にわたって検出された。これにより、非自然的な信号である可能性が他の候補に比べて高いと一時的に評価された。

この信号は、SETI@homeのボランティア参加者2名が発見し、その報告に基づいて集中的観測の対象に選ばれたものである。2003年の観測も含め、合計で3回ほど検出された記録がある。

SHGb02+14aに関する研究結果は、2004年9月1日にイギリスの科学雑誌「ニュー・サイエンティスト」で初めて公表され、その後多くのメディアで大きく取り上げられた。しかし、SETI@home計画の主任研究者であるダン・ワーシマー氏は、報道内容には誇張が含まれており、この信号が地球外知的生命体からのものである可能性は低いと、メディアに対して冷静な見解を繰り返し強調した。

信号の特性

検出されたSHGb02+14aの信号は、周波数1420MHz帯域の比較的弱い電波であった。この周波数は、宇宙に遍在する中性水素原子が自然に放射する周波数であり、地球外生命体が存在する場合、通信にこの「宇宙の共通周波数」を使用する可能性がSETI研究者によって長年議論されてきた帯域である。信号が見つかった天球上の位置は、うお座とおひつじ座の境界付近であった。

しかし、SHGb02+14aにはいくつかの不可解な特徴があった。一つは、その方角の1000光年以内の比較的近い距離に、既知の恒星や惑星系が見つかっていないことである。人工的な信号であれば、通常は何らかの送信源、例えば惑星上の文明から発信されると推測されるため、これは説明のつきにくい点であった。

さらに特異なのは、信号が示す急速な周波数ドリフト（変動）である。観測されたドリフト速度は毎秒8ヘルツから37ヘルツと、非常に速かった。これは、送信源が惑星の自転や公転によって地球からの相対速度が変化するために起こると考えられるが、SHGb02+14aのドリフト速度を説明するには、その惑星が地球の約40倍という物理的に非現実的な速度で自転している必要がある。

また、周波数ドリフトが起こっているにも関わらず、3回の観測すべてにおいて、信号がまず1420MHz付近で検出され、その後周波数が変化していくパターンが共通していた点も奇妙であった。もしこれが人工的な信号であり、知的生命体が意図的に送信しているのであれば、受信側で周波数が安定するように補正を行うか、あるいは信号自体を安定した周波数で送信する工夫がなされるはずである。しかし、SHGb02+14aにはそのような工夫が見られず、変動した状態で検出されたため、知的生命体による意図的な信号である可能性は低いと判断される要因となった。

正体に関する議論

SHGb02+14aの正体については、様々な可能性が議論された。メディアは地球外知的生命体との関連を示唆したが、SETI@homeの研究者たちは終始慎重な姿勢を崩さなかった。彼らは、SHGb02+14aが他の候補よりも「有望」であったとしても、当初から知的生命体からの信号である可能性は低いと考えていた。

人工的な信号説を否定する主な根拠は、前述の急速かつ不規則とも見える周波数ドリフトである。このドリフトは、仮に惑星上の文明から送信されたとしても、その惑星の自転速度が非現実的なほど高速でなければ説明がつかない。また、もし遠方の知的生命体が地球に宛てて信号を送るのであれば、受信側が容易に検出・追跡できるよう、より安定した形で送信されるのが合理的である。SHGb02+14aの変動する信号は、そのような配慮が見られないため、知的生命体によるものとしては不自然であった。

代替案として最も可能性が高いと考えられたのは、「統計的な偶然」である。SETI@homeは膨大な数の信号候補を分析するため、たとえ人工的な信号でなくても、純粋な偶然によって、ある特定の場所から複数回にわたって有意に見える信号が検出されることが起こりうる。これは「どこでも効果（look-elsewhere effect）」として知られており、数十億もの候補を扱ったSETI@homeにおいて、SHGb02+14aのような信号が偶然出現する可能性は十分に存在する。

別の可能性としては、「地上からの電波干渉」も挙げられた。アレシボ天文台のような電波望遠鏡は、地上からのノイズを拾うことがある。SHGb02+14aが観測された際に、望遠鏡の受信機が特定の方向を向いたときに、近くの地上施設などから発せられた電波が反射板を介して誤って検出された可能性も否定できない。

SETI@homeソフトウェアのハッキングという説も一時的に浮上したが、SHGb02+14aが複数のボランティアによって独立して報告され、後に研究者によって確認されていることから、可能性は低いと見なされた。

最終的に、仮にSHGb02+14aが実在する宇宙の電波源であったとしても、それが直ちに知的生命体由来と判断できるものではないという結論に至った。現在の天文学では説明できない自然現象である可能性も残されている。例えば、最初のパルサーやクエーサーが発見された当初も、その奇妙な信号パターンから宇宙人説が唱えられたが、後に高速自転する中性子星や活動銀河核といった自然現象であることが明らかになった歴史的な事例がある。SHGb02+14aも同様に、未知の自然現象の兆候である可能性が考えられたが、決定的な証拠や説明は見つかっていない。

これらの検討を経て、SHGb02+14aはSETIにおける興味深い候補の一つではあったものの、その特徴から地球外知的生命体からの信号である可能性は極めて低いと判断されるに至った。

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