SL-1

SL-1原子炉事故：アメリカ唯一の原子炉死者事故

1961年1月3日、アイダホ州のアイダホ国立研究所（当時、国立原子炉試験場）で、アメリカ陸軍の実験用原子炉SL-1（Stationary Low-Power Reactor Number One）において、水蒸気爆発事故が発生しました。この事故は、アメリカ国内において唯一、原子炉事故による即死者を出した事故として知られています。3名の作業員が死亡し、そのうち1名は原子炉格納容器プラグに貫通するという、凄惨な事故となりました。

SL-1原子炉：極地向け小型原子炉のプロトタイプ

SL-1は、陸軍原子力発電プログラムの一環として開発された、小型で遠隔地でも運用可能な原子炉のプロトタイプでした。北極圏などの遠隔地の軍事施設に電力と熱を供給することを目的としていました。設計出力は3MWでしたが、事故の数ヶ月前には4.7MWの出力テストが行われていました。通常運転では、電気出力200kW、空間暖房用の熱出力400kWでした。

SL-1は、すべての部品を空輸可能なサイズ（7.5 x 9 x 20フィート、重量20,000ポンド）に設計され、現場での建設も容易に行えるよう配慮されていました。また、極地の過酷な環境にも耐えうる設計と、燃料交換なしで3年間の連続運転を可能とする設計が盛り込まれていました。1958年8月に臨界状態に達し、同年10月より運転を開始しました。沸騰水型原子炉（BWR）で、高濃縮ウラン燃料を使用し、軽水を冷却材と減速材としていました。

事故の原因：制御棒の過剰な引き抜き

事故の原因は、炉心で中性子を吸収する中央制御棒（ロッド9）の過剰な引き抜きでした。年末年始休暇明けの作業再開に向けたメンテナンス中に、この制御棒が誤って20インチ（約51cm）も引き抜かれたのです。その結果、わずか4ミリ秒で炉心出力は20GW近くに達し、水蒸気爆発を引き起こしました。事故によって、約80キュリー（3.0 TBq）のヨウ素131を含む、約1,100キュリー（41 TBq）の核分裂生成物が大気中に放出されましたが、人里離れた場所に位置していたため、広範囲な環境への影響は限定的でした。

事故の経過：凄惨な現場と迅速な対応

爆発により、原子炉容器は上方に跳ね上がり、3名の作業員は重傷を負いました。そのうち2名は即死、1名は約2時間後に死亡しました。天井に突き刺さった遺体など、凄惨な現場となりました。事故発生後、NRTSの保安施設のアラームが作動し、消防隊員が駆けつけましたが、高レベルの放射線のため、初期の救助活動は困難を極めました。救助隊員の中には、被ばくした者もいました。

犠牲者となったのは、陸軍特技兵のリチャード・リーロイ・マッキンリー、ジョン・A・バーンズと、海軍建設工兵隊の建設電気技師一等兵曹リチャード・C・レッグでした。

事故後の調査と対策：原子炉設計と運用手順の見直し

事故後、徹底的な調査が行われました。その結果、SL-1は、中央制御棒を完全に引き抜くと、非常に大きな過剰反応度が発生する設計であったことが明らかになりました。事故では、制御棒の誤操作に加えて、設計上の問題や運用手順の不備なども指摘されました。

この事故を教訓として、原子炉の設計、運転手順、緊急時対応などが大幅に見直されました。特に、制御棒の誤操作による事故を防止するため、現在では「one stuck rod」基準が設けられています。これは、最も反応性の高い制御棒が完全に引き抜かれた位置で止まっていても、原子炉を完全に停止できることを要求するものです。

SL-1事故の遺産：安全性の向上と教訓

SL-1事故は、原子力発電の安全性に対する認識を大きく変え、原子炉設計や運転手順の改善に大きく貢献しました。この事故は、原子力安全に対する意識の高まりと、より厳格な安全基準の制定を促した重要な出来事でした。事故から得られた教訓は、今日の原子力安全対策の基礎となっています。しかし、この悲劇的な事故を忘れることなく、原子力の安全性を常に最優先事項として取り組んでいくことが重要です。

参考文献

省略

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