SOMETHING ELSE (来生たかおのアルバム)

来生たかお『SOMETHING ELSE』：変化と普遍が共存する15thアルバム

1989年にリリースされた来生たかおの15枚目のオリジナル・アルバム『SOMETHING ELSE』は、来生えつことの共同プロデュースという新たな試みがなされた作品です。また、オリジナル・シングルを含まない初のアルバムとしても知られています。

アルバム・タイトルに込められた意味

アルバム・タイトルは、来生えつこがファンクラブの会報に掲載されたエッセイから着想を得たもので、「いつもと違う何か」「新しい何か」「現代人が忘れている何か」という意味が込められています。来生えつこは、メロディーを聴いた段階でイメージを共有し、歌詞を制作していったため、非常にスムーズな作業だったと語っています。歌詞は、フィクションを排し、ストレートな感情表現を追求したとのことです。

一方、来生たかおは、昭和の終わりに本作をリリースしたこと、そして美空ひばりの訃報という出来事が、自身の年齢や時の流れを強く意識するきっかけになったと語っています。その結果、喜怒哀楽をより直接的に表現した楽曲が収録されることになりました。

ミュージシャンとの親密なコラボレーション

ジャケットでは、ハンチング帽を被り、イニシャルの「K」をあしらったセーターを着た来生たかおが、初期のギルバート・オサリバンを彷彿とさせる姿を披露しています。

編曲と演奏は、主にバックバンドの“スタートル”が担当しました。来生たかおは以前から彼らとのレコーディングを希望しており、コンサートツアーでの共同作業を経て、その夢が実現しました。短期間ながらも、十分な時間をかけて編曲やリハーサルを行い、質の高い作品を作り上げることができたと語っています。編曲者の“矢倉銀”は、来生たかおのペンネームです。

多彩な楽曲群

アルバムには、来生えつこの作詞による、バラエティ豊かな楽曲が収録されています。

余韻: アリナミンのCMで耳にしたフレーズを元に、地下鉄での偶然の再会を描いた軽快なナンバー。
思い出の時差: イギリス映画『イノセント』に着想を得た、普遍的な“時の流れ”をテーマにした楽曲。
至福: スティングの楽曲をイメージした、ソプラノサックスが印象的なシュールなナンバー。
TIME IS A KILLER: 都会で疲れた人々を応援する、来生えつこが以前から使いたかったタイトルを冠した楽曲。
トリステス (Tristesse): 美空ひばりへの鎮魂歌として作られた、普遍的な“人との別れの歌”。
夜よ急がないで: 映画『旅情』をモチーフに、異国情緒あふれる幻想的な世界を描いた楽曲。
密度: 前作に収録されなかった、失恋直後の男性の心情を歌った楽曲。村上春樹の小説に登場する“ピンクの傘立て”が歌詞に登場。
風の気持: ボブ・ディランの「Blowin' in the Wind」をイメージした、人生論的なメッセージを込めた楽曲。
THANK YOU EVERYDAY: コンサートツアーでの多忙な日々を歌った、複雑な構成を持つ楽曲。
ステラ (Stella): 元々フルオーケストラコンサートのために書かれた楽曲を、アルバム用に再構成したもの。

復刻盤

『SOMETHING ELSE』は、1991年、1995年、2007年に復刻盤がリリースされています。2007年盤は、『来生たかお大全集』CD-BOXに収録されています。

まとめ

『SOMETHING ELSE』は、来生たかおが新たな試みに挑戦し、自身の内面と向き合った意欲作です。変化を恐れず、常に新しい音楽を追求する姿勢が、このアルバムには凝縮されています。来生たかおの音楽世界を深く理解するための、重要な一枚と言えるでしょう。

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