SPARC Enterprise

SPARC Enterpriseシリーズ

SPARC Enterprise（スパーク・エンタープライズ）シリーズは、サン・マイクロシステムズ（現オラクル）と富士通が共同で開発したUNIXサーバー製品群です。SPARC V9アーキテクチャを採用しており、2007年に市場へ投入されました。このシリーズは、2004年6月1日に両社がSolarisオペレーティングシステムとSPARCプロセッサを搭載したサーバー製品ラインを統合することを発表した結果として生まれました。サンのSun Fireシリーズと富士通のPRIMEPOWERシリーズという、それまで個別に展開されていた製品の後継にあたり、「SPARC Enterprise」という共通ブランドのもと、両社から販売されました。開発時のコード名はAPL（Advanced Product Line）と呼ばれていました。

シリーズの展開は一時的なものとなり、2010年以降、新世代のSPARC CMTプロセッサ（SPARC T3など）を搭載したサーバーは、オラクルのSPARC Tシリーズとしてブランド化が進み、SPARC Enterpriseブランドは徐々に姿を消しました。富士通は、その後も2011年2月からSPARC Tシリーズの一部モデル（T3-1、T3-2、T3-4、T4-1、T4-2、T4-4）をSPARC Enterprise Tシリーズのラインナップとして販売を継続しましたが、2015年12月をもってシリーズ全製品の販売を終了しました。富士通自身のSPARCサーバーは、2013年に登場したSPARC M10以降、「SPARC Servers」という新たなブランド名のもと、引き続きMシリーズやTシリーズの販売を続けています。

主なモデル構成

SPARC Enterpriseシリーズは、主に搭載するプロセッサの種類によってMシリーズとTシリーズに大別されます。

SPARC64プロセッサベースのモデル（Mシリーズ）

Mシリーズは、富士通が開発したSPARC64プロセッサを搭載したモデル群で、主にミッドレンジからハイエンドのエンタープライズ市場を対象としていました。採用されたプロセッサはSPARC64 VI、SPARC64 VII、SPARC64 VII+です。「M」は、メインフレームクラスのシステムが持つ高い信頼性、可用性、保守性（RAS機能）を備えていることを示唆しています。
Mシリーズは2007年4月に最初のモデル（M4000、M5000、M8000、M9000）が登場し、その後M3000が追加されました。シリーズ全製品の販売は2013年9月に終了しています。
主なモデルには以下のものがあります。

M3000: 最大1CPU（4または2コア）、2Uラックマウント
M4000: 最大4CPU（合計16コア）、6Uラックマウント
M5000: 最大8CPU（合計32コア）、10Uラックマウント
M8000: 最大16CPU（合計64コア）、フロアスタンド型
M9000: 最大64CPU（合計256コア）、フロアスタンド型

Mシリーズに搭載されたSPARC64プロセッサは、世代ごとに進化しました。
SPARC64 VIはデュアルコアプロセッサで、各コアは双方向垂直マルチスレッド（VMT）をサポートしていました。これは「きめが粗い」マルチスレッド実装であり、特定のイベント（L2キャッシュミス、タイマー割り込みなど）が発生した際にスレッドを切り替える方式（スイッチオンイベント、SOEスレッドとも呼ばれる）でした。これにより、最大構成のM9000サーバーでは256の同時スレッド実行が可能でした。
2008年に登場したSPARC64 VIIはクアッドコア化され、双方向同時マルチスレッディング（SMT）をサポートしました。これにより、既存のMシリーズサーバーもプロセッサをアップグレードすることで性能向上を図ることができました。
さらに2010年にはSPARC64 VII+がリリースされ、SPARC64 VIIよりも高い周波数とより大きなL2キャッシュを備えました。SPARC64 VIIおよびVII+プロセッサモジュールは4つの物理コアを持ち、各コアが2つのスレッドを実行できますが、SMTでは2つのスレッドが命令パイプラインを同時に共有して実行効率を高めることができました。コンテキスト切り替えのオーバーヘッドがなく、スーパースカラー命令の発行時にサイクルを交互に使用したり、機能ユニットを共有したりします。
Mシリーズの特筆すべき機能の一つに、同一システムおよびドメイン内で異なる世代やクロック速度のプロセッサを混在させることができた点が挙げられます。この場合でも、最も遅いCPUに速度を合わせることなく、それぞれのプロセッサが本来の速度で動作しました。

Mシリーズは、その高性能からいくつかの主要なベンチマークで世界記録を樹立しています。2007年4月17日には、Sun SPARC Enterprise M9000がLINPACKベンチマークで1.032 TFLOPSを達成し、当時最速のシングルシステムスーパーコンピュータとなりました。また、2008年5月2日には、同じくM9000がOracle Database環境において、1テラバイトのデータ規模でのTPC-Hデータウェアハウスベンチマークで世界記録を樹立しました。2009年2月19日時点では、SPARC Enterprise M8000がSPEC OMP2001ベンチマークにおいて、中規模および大規模の両方で、64スレッドにおける世界記録を保持していました。

UltraSPARC Tプロセッサベースのモデル（Tシリーズ）

Tシリーズは、サンのUltraSPARC Tプロセッサファミリー（CoolThreadsとしても知られる）を搭載したモデル群です。このシリーズは、もともとサンのSun Fire T1000やT2000として販売されていたものが、SPARC Enterpriseブランドに名称変更されたものです。Tシリーズは2007年4月から販売が開始され、2011年3月にシリーズ全製品の販売が終了しました（ただし前述のように富士通は一部モデルの販売を継続しました）。
当初のUltraSPARC T1搭載モデルは以下です。

T1000: 1CPU（8コア）、1Uラックマウント
T2000: 1CPU（8コア）、2Uラックマウント

その後、2007年10月にはUltraSPARC T2ベースのサーバーがSPARC Enterpriseラインに追加されました。

T5120: 1CPU（8コア）、1Uラックマウント
T5220: 1CPU（8コア）、2Uラックマウント

さらに2008年4月には、複数CPU構成を可能にしたUltraSPARC T2 Plusベースのモデルが登場しました。

T5140: 2CPU（合計16コア）、1Uラックマウント
T5240: 2CPU（合計16コア）、2Uラックマウント

2008年10月には、4-way SMP構成に対応したUltraSPARC T2 Plusベースのモデルもリリースされました。

T5440: 4CPU（合計32コア）、4Uラックマウント

オペレーティングシステムと仮想化機能

SPARC Enterpriseシリーズのすべてのモデルは、Sun Microsystemsおよびその後のOracleから提供されるSolarisオペレーティングシステム、具体的にはSolaris 10およびSolaris 11を実行することがライセンスされていました。

システムのリソースを効率的に利用するための仮想化機能も充実していました。Mシリーズは、ハードウェアレベルでシステムを複数の電気的に分離されたパーティションに分割できる動的ドメイン（Dynamic Domains）および動的再構成（Dynamic Reconfiguration）機能をサポートしていました。UltraSPARC T1、T2、T2+を搭載したTシリーズモデルは、ソフトウェアベースの論理ドメイン（Logical Domains、略称LDoms）を使用してシステムを分割しました。MシリーズとTシリーズのどちらのモデルも、OSレベルの仮想化機能であるSolarisコンテナ（非グローバルゾーン）をサポートしており、それぞれのドメイン内で最大8191個の非グローバルゾーンを実行することが可能でした。

SPARC Enterpriseシリーズは、サンと富士通の技術を結集し、高性能と信頼性を両立させたエンタープライズ向けUNIXサーバーとして展開されましたが、そのブランドは短命に終わり、その後のSPARCサーバーは新たなブランドのもとで継承されていきました。

もう一度検索