SSADM

SSADM（構造化システム分析・設計手法）とは

SSADM（Structured Systems Analysis and Design Method）は、情報システムの分析と設計を行うための手法の一つです。イギリス政府の商務庁（CCTA）が、政府内での技術利用を目的として1980年代から策定しました。その名称は商務庁の登録商標です。

概要

システム設計方法論は、ソフトウェア工学の分野であり、情報に関する様々な活動のフレームワークを提供することで、コンピュータシステムが特定の目的に対応できるようにします。SSADMはウォーターフォールモデルの一種であり、各工程で厳密な文書を作成することを特徴とします。これは、RAD（Rapid Application Development）のようなアジャイル開発とは対照的です。

SSADMは、様々な開発手法の研究成果を取り入れた具体的な体系です。開発に貢献した主な人物として、以下の名前が挙げられます。

Peter Checkland: ソフトシステム方法論の開発者。
Larry Constantine: 構造化設計の研究者であり、データフロー図の発明者。
Wayne Stevens: 構造化設計の研究者。
Chris Gane と Trish Sarson: 『Structured Systems Analysis: Tools and Techniques』の著者。
エドワード・ヨードン: 構造化プログラミングにおけるヨードン法の開発者。
Michael A. Jackson: Jackson Structured Programming の開発者。
トム・デマルコ: 『構造化分析とシステム仕様』の著者。

工程

SSADMでは、分析・文書化・設計を以下の工程で進めます。

1. 現状システムの分析

実現可能性工程とも呼ばれ、現状のシステムを高い抽象度で分析します。データフロー図を使ってシステムの動作を明確にし、問題を特定します。
ビジネス活動モデルの開発: ビジネス活動のモデルを構築し、イベントと規則を洗い出して新しいシステムの仕様を作成します。
要求仕様の調査と定義: 新システムで解決すべき問題点や提供するサービスを定義します。
現状の処理の調査: 現状のサービスにおける情報の流れを調査し、データフローモデルで表します。改善は行いません。
現状のデータの調査: 現状のデータの収集と保存方法を調査し、システムデータの構造を特定し記述します。
現状のサービスの論理的観点の抽出: 現状の問題点を洗い出すため、論理的な観点を構築します。

2. 概要ビジネス仕様

要求仕様分析工程とも呼ばれます。現状の環境を調査し、システム要求仕様を特定し、現状のビジネス環境をモデリングします。データフロー図やLDS（Logical Data Structure）を使用します。
BSO（Bussiness Systems Option）の定義: 要求仕様を満たす複数のソリューションの選択肢を定義します。
BSOの選択: ユーザーにBSOを提示し、選択してもらいます。これにより、後の工程で開発されるシステムの概略が決定します。

3. 詳細ビジネス仕様

要求仕様記述工程とも呼ばれます。経営側が判断できるように複数のビジネス選択肢を提示します。各選択肢には、開発/実装によって実現される機能と範囲を記述し、技術文書（ワークプレイスモデル、論理データモデル、データフロー図など）を添付します。
要求されるシステム処理の定義: 選択されたBSOに従って要求仕様を改訂し、データフローでシステムを記述し、新システム内でのユーザーの役割を定義します。
要求されるデータモデルの開発: 現状の論理データモデルを、選択されたBSOに従って拡張します。
システム機能の抽出: イベントを抽出し、機能の更新と新たな機能を定義し、各機能のサービスレベルを定義します。
ユーザージョブ仕様の開発: ワークプレイスモデルを構築し、ユーザーの役割を理解するための文書を作成します。
要求されるデータモデルの詳細化: 関係モデルに従って論理データモデルの品質を改善します。
仕様記述プロトタイプの開発: デモンストレーション用のプロトタイプを作成し、ユーザーがシステムの要求仕様を理解できるようにします。
処理仕様の開発: システムの処理に関する仕様を詳細化します。
システムの目的の確認: ユーザーの要求がこれまでの工程に正しく反映されているかを確認します。

4. 論理データ設計

論理システム仕様工程とも呼ばれ、技術的に実現可能な選択を行います。
TSO（Technical Specification Option）の定義: 定義された機能の物理実装で実現可能な手法を特定し、技術環境の観点から要求仕様を検証します。
TSOの選択: ユーザーにTSOを提示し、選択してもらいます。

5. 論理プロセス設計
論理システム仕様工程とも呼ばれます。論理設計とプロセスを更新します。ダイアログもここで決定されます。
ユーザーダイアログの定義: 対話型インターフェイスに必要なダイアログを定義し、ナビゲーションも決定します。
更新処理の定義: 各イベントで必要となるデータベース更新の仕様を完成させ、エラー処理も決定します。
問合せ処理の定義: データベースへの問合せ処理の仕様を完成させ、エラー処理も決定します。

6. 物理設計

物理的なデータとプロセスの設計工程です。選択された言語やプラットフォームに応じて設計します。
物理設計の準備: 実装環境の規則を学び、詳細な要求仕様をレビューし、設計手法を計画します。
機能仕様を完成させる: データとプロセスの設計を順次行います。

技法

SSADMでは、以下の3つの主要な技法が使われます。

論理データモデリング: システムのデータ要求仕様を特定し、モデル化し、文書化します。データは実体（情報を記録すべき事物）と関連（実体間の関係）に分けられます。
データフローモデリング: 情報システム内でデータがどのように移動するかを特定し、モデル化し、文書化します。プロセス、データ格納域、外部実体、データフローを扱います。
実体行動モデリング: 各実体に影響を与えるイベントやその発生順序などを特定し、モデル化し、文書化します。

歴史

1980年: CCTAにより、各種分析・設計手法が評価されました。
1981年: LBMS法が選ばれました。
1983年: SSADMが全ての情報システム開発に適用されることが決定されました。
1984年: SSADM Version 2 がリリースされました。
1986年: SSADM Version 3 がリリースされました。
1988年: SSADM Certificate of Proficiency が開始され、オープンな標準として推進されました。
1989年: Euromethodへの歩み寄りが行われ、CASE製品認証スキーマが開始されました。
1990年: SSADM Version 4 がリリースされました。
1993年: SSADM V4 Standard and Tools Conformance Scheme がリリースされました。
1995年: SSADM V4+ が発表され、V4.2 がリリースされました。

参考文献

トム・デマルコ, 『構造化分析とシステム仕様』, 日経BP出版センター, 1994年, ISBN 4-8227-1004-1
DeMarco, Tom. Structured Analysis and System Specification. ISBN 0-13-854380-1.

外部リンク

What is SSADM? at webopedia.com
SSADM Version 4.2 Structural Standards at the Office of the Government Chief Information Officer (OGCIO) of the Government of the Hong Kong Special Administrative Region
SSADM Diagram Examples
Introduction to Methodologies and SSADM
* Structured Analysis Wiki

もう一度検索