Start Line (映画)

Start Line（スタートライン）

概要

2016年に公開されたドキュメンタリーロードムービー。生まれつき耳が聞こえない映画監督、今村彩子が、自身が抱えるコミュニケーションの悩みをテーマに、自転車での日本縦断を通して人々と出会い、壁を乗り越えようとする姿を追う。

制作背景と旅立ち

監督の今村彩子は、映画制作に携わる一方で、「聞こえる人」との間に存在するコミュニケーションの隔たりに深く苦悩していた。その壁は、自身の聴覚障害が原因だと考えていたという。そんな中、身近な家族との死別という大きな出来事を経験し、失意の日々を送る。このままではいけないと現状を打開することを決意した今村は、コミュニケーションをテーマにした映画を撮るべく、日本縦断の自転車旅に出ることを思い立つ。

資金は、企画書による協賛募集やクラウドファンディングを通じて集められた。旅の伴走者としては、自転車店に勤める知人の哲氏が同行することとなる。2015年7月、今村監督と哲氏の二人は、沖縄をスタート地点として、遠く離れた宗谷岬を目指し、自転車での長い旅を開始する。

旅の道のりと葛藤

旅は順風満帆ではなかった。コミュニケーションの不器用さ、交通ルール違反、道に迷うといった今村監督の度重なる失敗に対し、伴走者の哲氏からは容赦のない厳しい言葉が投げかけられる。指摘を受けて不貞腐れたような態度をとる今村に対し、哲氏は「コミュニケーションを、あなた自身が切っている！」とさらに強く迫る場面もあった。このような一触即発の状況が続き、旅の継続そのものが危ぶまれるほどの緊迫した空気が流れる。

出会い、そして変化

旅の途中、聴覚に障害があり、日本語も片言ながら、持ち前の明るさで出会う人々との交流を自然に楽しむオーストラリア人青年、ウィルと出会う。誰とでも分け隔てなくコミュニケーションを楽しむウィルの姿を見た今村は、不思議に思う。ウィルから発せられた「ピープル インサイド 同じ」（内面の人間は皆同じ）という言葉は、今村の心に深く響き、コミュニケーションに対する自身の捉え方を見つめ直すきっかけとなる。

映画が伝えるメッセージ

映画は、聞こえる・聞こえないに関わらず誰もが抱えうるコミュニケーションの悩みや、人生の困難に立ち向かう勇気を描いている。家族の死を乗り越え、自身の中の壁に挑み、旅を通して成長していく今村監督の姿は、観る者にとって「ためらう人に観てほしい、一篇の勇気のおすそわけ」として映る。

スタッフ・関連情報

監督・撮影・編集: 今村彩子
制作・配給: Studio AYA
使用機材: ジャイアント社のロードバイク「グレートジャーニー」が旅に使用された。
受賞・上映歴: 2017年のニッポン・コネクションでは観客賞を受賞するなど、国内外の映画祭で評価された（全州国際映画祭、あいち国際女性映画祭など）。
* 後援: 東京都聴覚障害者連盟、愛知県手話通訳問題研究会などが名を連ねる。

本作は、監督自身の切実なテーマを掲げた個人的な旅でありながら、普遍的なコミュニケーションの難しさ、そしてそれを乗り越えようとする人間の力強さを描き出した作品となっている。

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