Sun Grid Engine

Sun Grid Engine (SGE)

Sun Grid Engine、通称SGEは、多数のコンピューターを集約したクラスター環境や分散コンピューティング環境において、計算資源を効率的に利用するための高度なジョブ管理システムです。計算リソースの割り当てやジョブの実行順序を管理することで、並列処理や大規模計算の効率化を可能にします。

このシステムは、かつて存在したサン・マイクロシステムズが開発を支援し、オープンソースソフトウェアとして提供が始まりました。オープンソース版の開発が進む一方で、サン自身もN1 Grid Engineという名称で商用版をリリースし、企業や研究機関向けにサポートを含めた形で提供していました。オープンソースとしての取り組みと商用提供が並行して行われていたのが特徴です。

しかし、2010年にサン・マイクロシステムズがオラクルによって買収されたことで、SGEを取り巻く状況は大きく変化します。買収後、商用版はOracle Grid Engineと名を改め、オラクルから提供されるようになりました。これと同時期である2010年には、当初オープンソース版が公開されていたウェブサイトが閉鎖され、Sun Grid Engineのオープンソースとしての公式な開発はバージョン6.2u5をもって事実上終焉を迎えました。

オラクルは買収後にOracle Grid Engineのバージョン6.2u6をリリースしましたが、そのソースコードは非公開とされました。さらに、オラクルが行った改良や修正が既存のオープンソースリポジトリに還元されることもありませんでした。オープンソースコミュニティにとっては、それまで共同で開発を進めてきたプロジェクトが突然閉鎖され、今後の開発の見通しが立たない状況となりました。

こうしたオラクルの方針に対し、オープンソースコミュニティは独自の動きを見せます。かつてのSun Grid Engine 6.2u5のコードベースを基盤として、コミュニティ主導の新たなプロジェクトが複数立ち上げられました。主要なものとして、Open Grid SchedulerとSon of Grid Schedulerという二つのプロジェクトが生まれました。これらのプロジェクトは、公式なオープンソース開発が停止した後も、SGEの精神を引き継ぎ、コミュニティの力で開発を続けようとする試みでした。

各プロジェクトの動向は分かれました。Son of Grid Engineプロジェクトは比較的活発に開発が続けられ、少なくとも2014年10月時点では、公開リポジトリ上で開発の継続が確認されていました。一方のOpen Grid Schedulerプロジェクトは、2014年時点でもメーリングリストなどのコミュニティ活動は存在していましたが、ソフトウェア自体の最終リリースはGrid Engine 2011.11p1（2012年7月9日）で停止しており、プロジェクトのウェブサイトも2013年11月以降更新がされていませんでした。

商用版の流れはさらに変わります。2013年10月22日、Univa社がオラクルからSun Grid Engine関連の商標と顧客サポートを引き継ぎ、Univa Grid Engineとして商用版の提供を始めました。Univa版は特にMicrosoft Windows上でのネイティブ動作に対応を強化するなど、独自の機能拡張を進めています。元の6.2u5バージョンから派生しているものの、機能追加や変更により元のバージョンよりも複雑性が増しているとも指摘されています。

このように、Sun Grid Engineはサン・マイクロシステムズによるオープンソース開発と商用展開、オラクルによる買収とオープンソース開発の停止、そしてコミュニティによる派生プロジェクトの誕生やUnivaへの商用引き継ぎなど、複雑な歴史を辿っています。しかし、その技術は現在も様々な形で、多くの高性能計算環境やクラスターシステムで利用され続けています。

Sun Grid Engineとその派生システムは、広範なオペレーティングシステムに対応しています。主な対応プラットフォームは以下の通りです。

AIX
BSD系（FreeBSD, NetBSD, OpenBSDなど）
HP-UX
IRIX
Linux
Mac OS X
Solaris
SUPER-UX
Tru64
Microsoft Windows
* Z/OS|Z_OS

関連情報としては、かつてのGrid Engineの本部サイトや、サン・マイクロシステムズ日本による情報、そしてOpen Grid Schedulerのメーリングリストなどが存在しました（ただし、情報は古い可能性があります）。

もう一度検索