Sun Modular Datacenter

サンマイクロシステムズが開発した「Sun Modular Datacenter（サン・モジュラー・データセンター、略称：Sun MD）」は、標準的な20フィートサイズのISOコンテナ内にデータセンター機能を包括的に搭載した革新的な製品です。開発段階では「Project Blackbox（プロジェクト・ブラックボックス）」というコード名で知られていました。

開発背景

近年、インターネットの普及やデジタル化の進展に伴い、データセンターの需要は世界的に急増しました。しかしながら、従来のデータセンター施設は大規模な建設工事を伴うため、計画から稼働までに長い時間を要し、この急激な需要拡大に迅速に対応することが困難となっていました。Sun MDは、この課題を解決するため、データセンター全体をモジュール化し、コンテナという移動可能な箱に収めるというコンセプトのもとに開発されました。これにより、従来の建設手法に比べて大幅に短いリードタイムでデータセンターを配備することが可能となり、必要な場所に「データセンターをまるごと用意」できるようになりました。また、電力供給インフラが未整備な地域や、軍事活動、石油採掘現場など、一時的な利用や迅速な撤去が必要とされる特殊な環境でのニーズにも対応できる柔軟性を持っています。

製品仕様

Sun MDは、国際規格に準拠した20フィートの輸送用コンテナを筐体として利用しています。内部には、1Uサイズのラックマウントサーバを200台以上収容可能であり、例えばサンマイクロシステムズのSun Fire T1000であれば最大250台まで搭載できます。コンテナ1台あたり、最大200キロワットの電力を供給する能力を備えています。

外観は標準で黒いコンテナですが、これはあくまで筐体としての基本仕様であり、必要に応じて様々な色に塗装変更することも可能です。Sun MDを設置する際には、コンテナを置くための適切なスペースに加え、以下のインフラが必要です。

安定した電力供給
インターネット接続用のイーサネットケーブル（最低3本）
* 水冷システムのための冷却水

これらの条件が満たされれば、比較的容易にデータセンターの運用を開始できます。

主な導入事例

Sun MDの最初の納入先の一つとして、SLAC（スタンフォード線形加速器センター）に導入された実績があります。

日本国内においては、特に注目すべき事例として「地底空間トラステッド・エコ・データセンター・プロジェクト」が挙げられます。これは2007年11月14日に、サンマイクロシステムズ、株式会社インターネットイニシアティブ（IIJ）、ベリングポイント株式会社を含む合計12の企業・団体が共同で立ち上げた大規模プロジェクトです。この計画では、地下約100メートルの旧鉱山跡に多数のSun MDを設置し、データセンターとして活用することを目指しました。地下空間に設置することにより、安定した岩盤に守られることによる優れた耐震性が確保できるほか、地上からの視認性が低く、偵察衛星などから発見されにくいという、機密保持の観点からも大きなメリットがありました。このプロジェクトは2010年4月の稼働を目指しており、プロジェクト推進のためには専任の合弁会社設立も予定されていました。日本政府もこの先進的な取り組みを後押しし、国土交通省、経済産業省、総務省、環境省がアドバイザリーメンバーとしてプロジェクトに参加するなど、官民連携の体制が築かれていました。

発売情報

米国においては、2008年1月29日（現地時間）に「Sun Modular Datacenter S20」の正式製品名が付与され、一般向け提供が開始されました。発表当時の価格は55万9000ドルから（当時の為替レートで約6000万円）と設定されました。製品の提供開始に合わせて、導入計画、設置、運用保守などを包括的に支援するサービス群「Sun Modular Datacenter Suite of Services」の提供も発表されました。

日本国内では、米国での発表から約9ヶ月後の2008年10月1日から販売が開始されました。日本市場向けモデルは、国内の厳しい防火規制に対応するための独自の仕様が盛り込まれており、この防火設備を含めた価格は9865万8000円からとなりました。また、筐体奥行きが大きいタイプのラックマウントサーバにも対応可能な派生モデル「D20」も同時にラインナップに追加されました。日本国内での統合支援サービスについても、サン独自の提供体制に加え、国内のビルメンテナンス会社や日本通運株式会社など、様々なパートナー企業との連携によるサービスが用意され、多様なニーズに対応しました。

プロモーション活動

正式な製品発表に先立つ2007年には、開発コード名にちなんだ「Project Blackboxツアー」が実施されました。このツアーでは、実際のSun MDユニットを大型トレーラーに載せて、約1年をかけてアメリカ、欧州、そしてアジア各地を巡回し、製品の存在とコンセプトを広く紹介しました。日本国内では、2007年11月12日から14日にかけて、東京プリンスホテルにて製品の初お披露目イベントが開催され、最終日の14日には一般来場者向けの公開も行われました。

Sun Modular Datacenterは、データセンターの構築・運用における時間的・地理的な制約に対し、コンテナという形態を用いることで新たな解決策を提示した製品であり、その後のコンテナ型データセンターの展開を先導する存在となりました。

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