T-Kernel

T-Kernel（ティー・カーネル）は、オープンソースで提供されているリアルタイムオペレーティングシステム（RTOS）です。当初はT-Engineという組み込みシステム向けに開発されましたが、その後のバージョンアップにより、様々なターゲットハードウェアに対応するようになりました。特に、T-Kernel 2.0以降では、QEMUというプロセッサエミュレータにも対応しており、PC環境のみでT-Kernelアプリケーションの開発を始めることが可能です。

T-Kernelの概要

T-Kernelは、従来のITRONと同様に、スタティックメモリアロケーションによるカーネルベースのプログラミングが可能です。しかし、T-Engineの本来の目的である「ミドルウェアの流通」を促進するためには、ダイナミックメモリアロケーションをサポートし、プロセスベースのプログラミングが可能なT-Kernel/Standard Extensionの活用が推奨されています。

国産ロケット「イプシロン」や観測衛星「ひさき」では、μITRONとT-Kernelがそれぞれ採用され、小惑星探査機「はやぶさ2」の制御システムにもT-Kernel 2.0が使用されるなど、その信頼性は高く評価されています。また、μT-Kernel 2.0はIEEEに著作権譲渡契約が締結され、IEEE標準「IEEE 2050-2018」として正式に成立しました。

さらに、TRONプロジェクトが開発してきたリアルタイムOSは、IEEE Milestonesに「TRON Real-time Operating System Family, 1984」として認定され、その功績が広く認められています。

T-Kernelの構造

T-Kernelは、以下の3つの主要な部分で構成されています。

T-Kernel/OS (Operating System): リアルタイムOSとしての基本的な機能を提供し、μITRONに相当する機能が主にこの部分で実現されます。
T-Kernel/SM (System Manager): デバイスドライバやシステムメモリの管理など、システム全体の管理機能を提供します。μITRONから拡張された機能が実装されています。
T-Kernel/DS (Debugger Support): デバッガなどの開発ツールが使用するための機能を提供します。

T-Kernelのライセンス

T-Kernelのソースコードは、トロンフォーラムが独自のT-Licenseに基づいて無償で配布しています。T-License 2.2では、商用利用を含む無償利用が可能であり、ソースコードの改変も許可されています。ただし、以前のライセンスではソースコードの自由な再配布が制限されていましたが、T-License 2.0以降では、オリジナルソースコードや改変版ソースコードの再配布が可能になり、自由度が向上しています。

T-Kernelのシリーズ展開

T-Kernelは、様々なターゲットハードウェアに対応するために、以下のシリーズ展開を行っています。

MP T-Kernel: マルチプロセッサ/マルチコアシステムに対応したバージョンです。非対称型マルチプロセッサ(AMP)に対応したAMP T-Kernelと、対称型マルチプロセッサ(SMP)に対応したSMP T-Kernelがあります。
AMP T-Kernel: 各プロセッサに一つずつ割り当てられ、プロセッサ間の同期や通信をサポートします。
SMP T-Kernel: 全てのプロセッサを一つのカーネルで管理し、タスクのスケジューリングなどを一元的に行います。
* μT-Kernel: 小規模な組み込みシステムを対象とした軽量版です。T-Kernelとの互換性を維持しつつ、小規模システム向けに最適化されています。μT-Kernel 3.0からはGitHubでもソースコードと仕様書が公開されています。

まとめ

T-Kernelは、その柔軟性と拡張性から、組込みシステム開発において重要な役割を果たしています。オープンソースとして無償で利用でき、商用利用も可能なため、幅広い分野での活用が期待されています。マルチプロセッサ対応のMP T-Kernelや小規模システム向けのμT-Kernelなど、多様なニーズに対応できる点が大きな強みです。

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