T-Engine

T-Engine (ティー・エンジン) とは

T-Engineは、組込みシステム開発の効率向上を目的に、ミドルウェアの流通を促進するプロジェクトです。T-Engineフォーラム（現トロンフォーラム）によって推進されており、国内外の多くの企業や研究機関が参加しています。

このプロジェクトは、従来のTRONプロジェクトで培われたITRONの標準化の考え方をさらに発展させ、ハードウェア仕様やドライバインターフェース、オブジェクトフォーマットなどの標準化（「強い標準化」）を目指しています。これにより、ソフトウェア資産の共通化と有効活用を図り、高機能な組込み機器やユビキタスコンピューティング環境の開発効率を向上させることを目的としています。

T-Engine の背景

TRONプロジェクトでは、リアルタイムOSであるITRONを通じてサービスコールの標準化を進め、携帯電話、FAX、コピー機、ATM、カラオケマシン、自動車のエンジン制御など、多岐にわたる分野で広く採用されてきました。しかし、より高機能でネットワーク対応が進む組込み機器の開発に対応するため、T-Engineではハードウェアレベルでの標準化を強化し、ソフトウェア資産の再利用性を高めることを目指しています。

T-Engine の開発プラットフォームと応用

T-Engineは、SH、MIPS、ARMなどの多様なCPUに対応した開発キットを提供しています。さらに、FPGA上のソフトコアにも対応しています。また、応用製品として「Teacube」などが提供されており、これらの開発環境でソフトウェア開発を進めながら、並行してハードウェア開発を進めることで、製品開発期間の短縮（Time-to-Marketの短縮）を実現します。

T-Engineフォーラムは2015年にトロンフォーラムに名称を変更しましたが、T-Engineの推進活動は継続されています。現在は、ユビキタスコンピューティング基盤技術の標準化に加え、オープンデータやオープンAPIの整備・普及にも取り組んでいます。

T-Engine の主な仕様

ハードウェア仕様

標準T-Engine: 携帯情報端末など、比較的高いユーザーインターフェースを持つ機器向けのプラットフォームです。CPUボードのサイズは75mm×120mmと規定されています。
μT-Engine (マイクロ・ティーエンジン): 家電や計測機器など、GUIを必要としない機器向けのプラットフォームです。CPUボードのサイズは60mm×85mmと規定されています。
nT-Engine (ナノ・ティーエンジン): 小型家電機器向けのコインサイズのプラットフォームで、デリバリを目的とした規格です。
pT-Engine (ピコ・ティーエンジン): 照明器具、スイッチ、センサーなど、ユビキタスコンピューティングの最小単位に適用する機器向けのプラットフォームで、nT-Engineと同様にデリバリを目的とした規格です。

ソフトウェア仕様

T-Kernel: オープンソースのリアルタイムOSで、T-Engine用として開発されました。現在はT-Engine以外のハードウェアもサポートしています。T-Kernelは、トロンフォーラムが独自のT-Licenseに基づいて無償で配布しています。T-Kernelは、ITRONと同様に静的メモリアロケーションによるカーネルベースのプログラミングが可能です。しかし、T-Engineの目的であるミドルウェアの流通のためには、動的メモリアロケーションとプロセスベースのプログラミングが可能なT-Kernel/Standard Extensionを使用することが推奨されます。

T-Kernel/OS: リアルタイムOSの基本機能を提供します。(μITRONに相当する機能が含まれます。)
T-Kernel/SM: デバイスドライバやシステムメモリの管理など、システム全体の管理機能を提供します。
T-Kernel/DS: デバッガなどの開発ツールが使用するための機能を提供します。
T-Monitor: OSの起動やデバッグを行うためのモニタソフトウェアです。

T-Engineアプライアンス (応用製品)

T-KernelやT-Kernel Extensionを使用する実際の製品は「T-Engineアプライアンス」と呼ばれます。これらの製品はハードウェア仕様に制約がなく、それぞれの製品に最適な構成が可能です。

Teacube: T-Engine、T-Kernel、GUIミドルウェア「T-Shell」を実装した評価用機器です。組込みエンジニア向けに提供されています。
Teaboard: T-Kernelを搭載した学習用ボードで、開発環境が付属しています。
μTeaboard: 組込み教育の教材や制御用ボードとして利用されるボードです。

T-Engine の実績

T-Kernelは、国産ロケット「イプシロン」や観測衛星「ひさき」、小惑星探査機「はやぶさ2」の制御システムにも採用されており、その信頼性と高性能が実証されています。

まとめ

T-Engineは、組込みシステム開発の効率化とミドルウェアの流通を促進する重要なプロジェクトです。標準化されたプラットフォームとソフトウェア環境を提供することで、開発期間の短縮とソフトウェア資産の有効活用に貢献しています。また、ユビキタスコンピューティングの基盤技術としても、今後の発展が期待されています。

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