TDK SA

TDK SAシリーズ：オーディオカセットテープの歴史

TDKのSA（スーパー・アビリン）シリーズは、1975年から1997年にかけて製造・販売された、ハイポジション（クロムポジション）用のコンパクトカセットテープです。また、1981年から1996年まではEEポジション用のオープンリールテープとしても展開されました。この項目では、特にコンパクトカセットテープとしてのSAシリーズに焦点を当て、その技術的な特徴、歴史、および関連製品について詳しく解説します。

SAシリーズの誕生と革新

1975年3月、TDKはそれまでの主力製品であった純粋なクロムテープ「KR」の後継として、SAを発売しました。SAの最大の特徴は、TDKが独自に開発した「アビリン」と呼ばれる磁性体を採用したことです。アビリンは、特殊な酸化鉄にコバルトイオンを吸着させたもので、従来の二酸化クロム磁性体と比較して、高域特性を維持しつつ、中低域での性能を大幅に向上させることに成功しました。

クロムテープの弱点であった中低域の性能不足を克服しただけでなく、クロムテープの製造における毒性の問題や、製造特許による制約、さらにカセットデッキのヘッド摩耗といった問題も同時に解決しました。これにより、SAは多くのオーディオメーカーのカセットデッキの基準テープとして採用されることになり、オーディオ愛好家から高い評価を得ました。

進化と終焉

SAは発売後も数回にわたって改良が重ねられましたが、1997年3月、既存のハイポジションテープであるAD2に統合される形で製造を終了しました。これにより、SAは22年の歴史に幕を閉じました。しかし、その優れた性能と技術は、後のオーディオ技術に大きな影響を与えました。

SA-X：上位モデルの登場

1979年11月、SAの上位モデルとしてSA-Xが登場しました。SA-Xは、アビリン磁性体を中低域用と中高域用に二層塗りすることで、さらに高音質を実現しました。発売当初の価格はC46が650円、C60が850円でした。SA-Xも数回の改良を経て、1995年3月にSAに統合され、製造を終えました。

SA-Xには、特筆すべき派生モデルが存在します。それは、メタルポジション用カセットテープの販売が制限されていた一部の欧州市場向けに開発されたSA-XGです。このモデルは、SA-Xの磁気テープ本体に、当時最高級のメタルテープ「MA-XG（初代）」とほぼ同じ3ピース構造のNew RS（RS-Ⅱ）メカニズムを採用したカセットハーフを組み合わせたものでした。SA-XGは1986年から1990年にかけて、主にヨーロッパ市場で販売されました。

SAシリーズの技術的特徴

SAシリーズの成功は、その革新的な磁性体「アビリン」の開発に大きく依存しています。アビリンは、従来のクロムテープが抱えていた問題を解決し、高音質と耐久性を両立させました。また、SA-Xでは磁性体の二層塗りを採用することで、さらに高い音質を実現しました。これらの技術は、当時のカセットテープ技術において画期的なものであり、SAシリーズがオーディオ愛好家から長く愛される理由となりました。

SAシリーズの歴史的意義

SAシリーズは、単なるオーディオカセットテープの枠を超え、その技術的な革新性により、オーディオ業界全体に大きな影響を与えました。特に、アビリン磁性体の開発は、その後の磁気記録技術の発展に大きく貢献しました。SAシリーズの登場は、カセットテープの可能性を広げ、音楽文化の発展に大きく寄与したと言えるでしょう。

参考資料

FUTABASHA SUPER MOOK 〜TDKカセットテープ・マニアックス〜（2023年8月7日発行、双葉社、ISBN 978-4-5754-5945-6）
ONTOMO MOOK stereo編 カセットテープ完全アルバム 僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて（2023年12月1日発行、音楽之友社、ISBN 978-4-276-96368-9）

関連項目

TDK SF → TDK SR
TDK HX
* TDK AD Type2 → TDK AD2

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