メタルポジション

メタルポジションとは

メタルポジション（Metal Position）とは、コンパクトカセットで使用される磁気テープの一種で、特に高音質録音を目的としたものです。IEC（国際電気標準会議）ではTYPE IVと規定されています。

この解説では、特にコンパクトカセットにおけるメタルポジションについて掘り下げていきます。

メタルテープ誕生の背景

1970年代初頭、コンパクトカセットは音楽録音メディアとして普及し始めました。当初はノーマルポジションのテープが主流でしたが、シンセサイザーなどの高音域の再現能力に限界がありました。その後、ハイポジション（クロムポジション）が登場し、高音域の録音が可能になりましたが、最大録音レベルが低く、低音域の表現に課題が残りました。

これらの課題を解決するために、1978年、住友スリーエム（現スリーエムジャパン）が業界初のメタルテープ「METAFINE」を発売しました。このテープは、低音から高音まで全域で高い最大出力レベルを実現し、より原音に近い録音を可能にしました。

翌1979年、ソニー、TDK、マクセル、富士フイルムなどの大手メーカーもメタルテープの生産を開始し、1979年は「メタルテープ元年」とも呼ばれています。日本ビクターは、世界初のメタルテープ対応カセットデッキ「KD-A6」を1978年に、メタルテープ対応ラジカセ「RC-M70」を1979年に発売し、メタルテープの普及を後押ししました。

メタルテープの特性

メタルテープは、非酸化金属のメタルパウダーを磁性体に使用しています。発売当初は酸化の懸念がありましたが、実際には磁性体自体の酸化はほとんど発生しませんでした。

メタルテープの最大の特徴は、ハイポジションをはるかに上回る高い保磁力と残留磁束密度です。これにより、より広い周波数帯域とダイナミックレンジでの録音が実現しました。

検出穴の利用

メタルテープは、ノーマルやハイポジションテープとは異なる特性を持つため、自動判別するための工夫が必要でした。初期のメタルテープには検出穴がなかったため、オートテープセレクター搭載のデッキでは認識できませんでした。しかし、メタルテープが登場した当初は、手動でテープセレクターを切り替えるタイプのデッキが主流だったため、大きな問題にはなりませんでした。

価格

メタルテープは、初期の頃は非常に高価でした。1978年発売のScotch「METAFINE」46分は1,350円でしたが、同時期のノーマルテープが550円、ハイポジションテープが600円程度だったことを考えると、その価格の高さがわかります。その後、TDKの「MA-R」、ソニーの「METALLIC」など、各社から高級モデルが発売され、価格はさらに上昇しました。しかし、1980年代後半からは、低価格化が進み、メタルテープも一般的に手が届く範囲になりました。

生産終了と販売終了

メタルテープは、1990年代後半から生産終了となり、2000年代初頭には市場から姿を消しました。販売終了の主な要因としては、ノーマルやハイポジションテープの性能向上、MDやCD-Rなどのデジタル録音メディアの普及、そしてiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーの台頭が挙げられます。

メタルテープに対応したカセットデッキやラジカセも、2000年代に入ると製造が終了しました。ナカミチやソニーなど、一部のメーカーは2010年代までカセットデッキを製造していましたが、その多くは廉価版のダブルデッキタイプに移行しました。

現在では、新品のメタルテープを入手することは困難ですが、リサイクルショップなどでデッドストック品が見つかることがあります。特に、発売当時人気が高かった高級モデルは、高値で取引される傾向があります。

使用上の注意点

メタルテープは高い性能を持つため、再生時には50μsのイコライザーを使用するのが理想的でしたが、従来のデッキとの互換性を考慮して70μsが採用されました。

メタルテープの能力を最大限に引き出すためには、メタルポジションに対応した録音機が必要です。メタルテープに対応していない録音機で録音した場合、音が完全に消去されずに残ってしまうことがあります。

初期のメタルテープには検出穴がなかったため、オートテープセレクター搭載のデッキでは正常に認識されない場合があります。その場合は、手動でメタルポジションに設定する必要があります。

また、古いノーマルポジション専用の録音機でメタルテープを再生すると、磁気ヘッドが摩耗しやすくなる可能性があります。

主なメタルテープのラインナップ

以下に、各メーカーが過去に発売していた主なメタルテープのラインナップを記載します。

TDK: MA, MA-R, MA-X, MA-XG, MA-EX, CDing-IV, Super CDing-IV, CDing-Metal, DJ Metal
日立マクセル: MX, METAL-Capsule, Metal-GPX, Metal-Vertex, METAL-XS, METAL-UD, Metal-CD's, Metal-Po'z
ソニー: METALLIC, Metal-ES, Metal-S, Metal-Master, Super Metal Master, METAL-XR, ES-IV, X-IV, Metal-XRS, CDixIV
富士フイルム・AXIA: Super Range, SR, FR-METAL, XD-Master, PS-IVx, PS-METAL, METAL, METAL Slim, AU-IVx, K-METAL, J'z-METAL
日本コロムビア・DENON: DXM, MD, CD-JackIV, MG-X, GR-IV
太陽誘電・That's: MG, MR, MG-X, MR-X, EVE IV, MR-XP, CD-IV, SUONO, CD-IV S, PH IV, CD/IV F, OW-4
日本ビクター・JVC: ME, ME-PRO, ME-ProII, ME-NewPro, XF IV
Magnax・コニカ: Metal, MM
松下電器産業・Technics: MX, COMPOS, EM, Angrom MX-DU, Angrom MA-DU
日立製作所・Lo-D: ME, MT-X, MT#
ティアック: Studio, Studio-X, O-Casse/MT
パイオニア: M1, M1a
ナガオカ・ジュエルトーン: METAL MUSIC
住友スリーエム・Scotch: Metafine
BASF: Metal, ProIV
ナカミチ: ZX

参考文献

ステレオ時代特別編 〜カセットテープコンプリートブック〜（ネコ・パブリッシング）
ONTOMO MOOK stereo編 カセットテープ完全アルバム 僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて（音楽之友社、2023年）
FUTABASHA SUPER MOOK 〜TDKカセットテープ・マニアックス〜（双葉社、2023年）
FUTABASHA SUPER MOOK 〜マクセル・カセットテープ・マニアックス〜（双葉社、2024年）
FUTABASHA SUPER MOOK 〜ソニー・カセットテープ・マニアックス〜（双葉社、2024年）

注

関連項目

コンパクトカセット
ノーマルポジション
ハイポジション（クロムポジション）
フェリクロムポジション
8ミリビデオ/Hi8
EDBeta
W-VHS
DAT（デジタルオーディオテープ）
デジタル[[マイクロカセット]]（NT）

外部リンク

* カセットテープ収蔵品展示館

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