TOI-169 b

TOI-169 b（別名 TIC 183120439 b）は、太陽のようなG型星である恒星TOI-169の周囲を公転する太陽系外惑星です。この惑星の存在は、2020年にアメリカ航空宇宙局（NASA）が運用するトランジット系外惑星探索衛星（TESS）の観測データから初めて確認され、その発見が発表されました。TESSは、惑星が主星の手前を通過（トランジット）する際に主星の光がわずかに減光する現象を捉えることで系外惑星を発見する手法を用いています。

TOI-169 bは、巨大ガス惑星に分類される天体であり、その物理的性質として質量が木星の約0.791倍（0.791 MJ）、半径が木星の約1.086倍（1.086 RJ）であることが測定されています。特筆すべきはその半径で、同じくらいの質量を持つ一般的なガス惑星と比較して半径が大きいことから、「膨張した」木星型惑星と考えられています。このような、質量は大きいが半径が膨張している惑星の存在は、惑星内部の構造や大気、あるいは主星からの強いエネルギー流入などが影響していると考えられており、活発な研究対象となっています。

この惑星は、主星TOI-169から非常に近い軌道を周回しているため、「ホット・ジュピター」と呼ばれるクラスに属します。ホット・ジュピターは、その名の通り、主星のすぐ近くを公転する木星型惑星を指し、一般的に公転周期が10日未満と非常に短いのが特徴です。TOI-169 bの公転周期は約2.2554477日であり、これは太陽系で最も内側を公転する水星の約88日という周期と比較しても格段に短いことがわかります。軌道長半径は約0.03524天文単位（AU）であり、これは地球から太陽までの平均距離のわずか約3.5%に相当する近さです。

主星にこれほど近い距離にあることから、TOI-169 bは恒星TOI-169から極めて強い放射、すなわち強力な照射エネルギーを受けています。2020年の発見発表時には、TOI-169 bの他にもHIP 65 AbやTOI-157 bといった系外惑星が同時に報告されましたが、これら三つの惑星の中で、TOI-169 bは公転周期が最も長いにもかかわらず、主星からの照射量が最も多いという特異な性質を持っています。これは、主星TOI-169のタイプや光度が、同時発見された他の惑星の主星とは異なるためと考えられますが、入力情報からは詳細な原因は特定できません。しかし、この強い照射こそが、惑星の膨張など、その物理的状態に大きな影響を与えている可能性が指摘されています。

さらに興味深いのは、TOI-169 bが系外惑星のパラメータ空間において、「Neptunian Desert（ネプチュニアンデザート）」として知られる領域の境界付近に位置していることです。ネプチュニアンデザートとは、主星からの強い熱によって惑星大気が散逸しやすい環境にあるため、海王星程度の質量の惑星が統計的にほとんど見られないとされる領域です。TOI-169 bは、質量こそ海王星よりはるかに大きい木星クラスですが、極端に強い照射を受けているため、この惑星分布の乏しい領域の「端」に存在しているという点で、この領域の形成メカニズムや惑星大気の散逸過程を理解する上で重要な示唆を与えると考えられています。

TOI-169 bのような、膨張したホット・ジュピターであり、かつ強い照射とネプチュニアンデザートの境界といった特異な環境にある系外惑星は、惑星形成論や進化論における従来のモデルを検証し、修正する上で貴重な事例となります。特に、強い放射が大気に与える影響や、観測されている惑星半径の異常な膨張を引き起こすメカニズムの解明に向けて、今後の詳細な観測や理論的な研究が期待されています。

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