TTT図

TTT図：鋼の組織変化を予測するツール

TTT図（Time-Temperature-Transformation diagram）とは、鋼の熱処理における組織変化を、温度と時間との関係で示した図表です。縦軸に温度（線形目盛）、横軸に時間（対数目盛）をとり、様々な温度と時間で鋼がどのような組織へと変化するかを視覚的に表現しています。特に、共析鋼（炭素含有率約0.8%）のTTT図がよく用いられます。別名として、S曲線や恒温変態曲線（isothermal-transformation-diagram）などとも呼ばれています。

TTT図の構成要素

TTT図は、いくつかの重要な線から構成されています。これらの線は、特定の組織変態の開始と終了を示しています。

オーステナイトの変態線 (727℃): この水平線は、オーステナイト（高温状態の鉄の固溶体）が安定に存在できる最高温度を示しています。この温度以上では、鉄はγ状態であり、変態は起こりません。
パーライト変態開始線: この曲線は、オーステナイトからパーライト（フェライトとセメンタイトの層状組織）への変態が始まる温度と時間を示します。温度が高いほど、パーライトの層は粗大になります。
パーライト変態終了線: パーライト変態が完了する温度と時間を示す曲線です。
パーライト変態曲線の「鼻」: この曲線の最も左下に位置する部分で、最も短時間でパーライト変態が完了する点を示します。この点で変態させた鋼は、非常に微細で硬いパーライト組織となります。この組織はトルースタイトと呼ばれます。また、鼻より少し高い温度で変態した組織はソルバイトと呼ばれ、パーライトよりも微細な組織となります。
ベイナイト変態開始線: オーステナイトからベイナイト（フェライトとセメンタイトの針状組織）への変態が始まる温度と時間を示す曲線です。
ベイナイト変態終了線: ベイナイト変態が完了する温度と時間を示す曲線です。ベイナイトはパーライトよりも微細な組織で、上部ベイナイトと下部ベイナイトに分けられます。温度が高いほど上部ベイナイト、低いほど下部ベイナイトとなります。
マルテンサイト変態開始線: オーステナイトからマルテンサイト（体心正方晶の超硬組織）への変態が始まる温度と時間を示す線です。マルテンサイト変態は拡散変態ではなく、急冷によって起こります。そのため、TTT図では、温度を一定に保つだけでは変態が進まず、冷却速度に依存します。
マルテンサイト変態終了線: マルテンサイト変態が完了する温度と時間を示す線です。

TTT図の利用

TTT図は、鋼の熱処理条件を決定する上で非常に重要な役割を果たします。例えば、目的とする組織（パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなど）を得るために必要な温度と時間を、TTT図から読み取ることができます。これにより、材料の強度、硬さ、靱性などの機械的性質を制御することが可能になります。

関連事項

TTT図と似た図にCCT図（連続冷却変態図）があります。TTT図は等温変態（一定温度で保持）を前提としているのに対し、CCT図は冷却速度が一定であることを前提としています。実際の熱処理ではCCT図の方が現実的な状況を表すことが多いです。また、熱処理技術全般においても重要な知識となります。

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