マルテンサイト

マルテンサイト：鋼鉄の硬さと脆さの秘密

マルテンサイトは、鉄と炭素の合金（鋼や鋳鉄）を高温状態から急激に冷却することで生成される組織です。その特徴は、際立つ硬さと脆さです。この組織は、鉄の結晶構造に炭素原子が侵入した状態であり、鋼鉄材料の中でも最も硬い組織として知られています。

マルテンサイトの発見と名称

1891年、ドイツの冶金学者アドルフ・マルテンスによって発見され、彼の名前にちなんで名付けられました。日本においては、組織の形状が麻の葉に似ていることから「麻留田（マルテン）」という漢字表記も用いられていましたが、現在ではあまり使用されていません。

マルテンサイトの形成：急冷と無拡散変態

鉄と炭素の合金は、高温ではオーステナイト（面心立方格子構造）という状態が安定していますが、温度が下がるとフェライト（体心立方格子構造）へと変態しようとします。ゆっくりと冷却すると、炭素原子は結晶内を移動してフェライトから離れ、セメンタイト（炭化鉄）を形成し、パーライト（フェライトとセメンタイトの層状組織）となります。

しかし、急激に冷却すると、炭素原子が移動する時間がなくなり、炭素原子が体心立方格子内に閉じ込められた状態、つまり準安定状態のマルテンサイトが形成されます。これは拡散を伴わない変態（無拡散変態）です。

応力を加えることによってもマルテンサイトが生成されることがあり、これを応力誘起マルテンサイトと呼びます。形状記憶合金は、このマルテンサイト変態を利用した材料です。また、ステンレス[[鋼]]の一部は、加工中にマルテンサイトに変態することがあります（加工誘起マルテンサイト変態）。

マルテンサイトの利用：工具[[鋼]]から日本刀まで

マルテンサイトは、マルテンスの発見以前から、日本刀の刃など、経験的に利用されていました。現在でも、工具[[鋼]]をはじめ、ステンレス[[鋼]]や構造用鋼など幅広い分野で利用されています。

マルテンサイトの特性は炭素濃度に大きく依存します。炭素濃度が低いとラスマルテンサイト、高いとレンズ状マルテンサイトという組織が形成され、後者は非常に脆くなります。浸炭処理の不具合などは、この組織構造に起因することがあります。

鋼鉄をマルテンサイトに変態させる熱処理を焼入れと言います。焼入れによって硬度は向上しますが、同時に脆性も増すため、通常は焼き戻し処理を行い、硬さと靭性のバランスを調整して利用します。

マルテンサイトの評価には、引張試験（強度）、シャルピー衝撃試験（靭性）、摩擦試験など様々な方法が用いられます。かつては、マルテンサイトの高い硬さを利用して硬質磁性材料としても使用されていました。

まとめ

マルテンサイトは、急冷によって生成される、硬く脆い組織です。その特性は炭素濃度や熱処理によって制御でき、工具[[鋼]]やその他の鋼鉄材料において重要な役割を果たしています。 その発見から現在まで、様々な分野で活用され続けている、鋼鉄の重要な組織です。

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