The Eras Tour

The Eras Tour（ザ・エラス・ツアー）

アメリカのシンガーソングライター、テイラー・スウィフトによる6回目の大規模コンサートツアー。「The Eras Tour」と名付けられたこのツアーは、スウィフト自身がその音楽活動における「時代（Eras）」すべてを網羅する旅であると位置づけており、過去から現在に至る広範な楽曲で構成されています。

ツアー開催までの経緯

前回の「Reputation Stadium Tour」を終えたテイラー・スウィフトは、アルバム『Lover』のリリースに合わせて、2020年に「Lover Fest」という新たなコンサートツアーを企画していました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックにより、この計画は中止を余儀なくされます。コンサート活動が制限される中、スウィフトは精力的に楽曲制作を行い、パンデミック期間中の2020年に『Folklore』と『Evermore』、そして2022年には『Midnights』といった新たなスタジオアルバムを発表しました。また、2019年以降の原盤権（マスター音源）を巡る論争に対応するため、自身の楽曲を再録音するプロジェクトも進行させ、2021年には『Fearless (Taylor's Version)』と『Red (Taylor's Version)』をリリースしました。これらの多様な「時代」の楽曲を携え、満を持して企画されたのが「The Eras Tour」です。

発表と拡大

ツアーは2022年11月1日、テレビ番組「グッド・モーニング・アメリカ」を通じて正式に発表されました。同年11月15日に始まったチケットの先行販売では、当初の予定であった全米27公演に対し、予測をはるかに超える圧倒的な需要が発生しました。この未曽有の状況に対応するため、急遽3公演が追加され、米国での公演数は合計52公演に拡大されました。その後もツアーの規模は拡大を続け、2023年6月以降、ラテンアメリカ、アジア、オセアニア、ヨーロッパ、そしてカナダでの追加公演が次々と発表され、名実ともに世界的なツアーとなりました。しかし、チケット販売においては、主要な販売プラットフォームであるチケットマスターが、システムの不備や独占的な地位に対する批判に晒されるといった混乱も発生しました。

開催期間と社会的影響

「The Eras Tour」は、2023年3月17日にアメリカのグレンデールで幕を開け、2024年12月8日にカナダのバンクーバーで閉幕する予定です。この長期間にわたる巨大ツアーは、単なる音楽イベントを超え、様々な面で社会に大きな影響を与えました。

文化的側面では、過去の楽曲から最新作までを網羅するパフォーマンスが世界中のファンを熱狂させ、ソーシャルメディアやニュースサイクルにおける圧倒的な存在感を示しました。経済的側面では、開催される都市や地域に多大な経済効果をもたらし、観光や関連ビジネスを活性化させました。この経済効果の大きさが、世界各地で熾烈な誘致競争を引き起こしました。特に、東南アジアで唯一の開催地となったシンガポールが、周辺国での公演を行わないことを条件に政府補助金を支出したことが明らかになり、タイ首相による言及をきっかけに周辺国からの批判が高まり、国際問題に発展するという異例の事態にまで至りました。

記録的な興行成績も特筆すべき点です。2023年12月8日には、ツアー開始からわずか60公演という段階で、コンサートツアーとして史上最高の興行収入を達成し、同時に初めて興行収入が10億ドルを超えたツアーとなりました。

コンサート映画

ツアーの熱狂は劇場にも波及しました。2023年8月31日、ロサンゼルスのSoFiスタジアムで収録されたコンサート映画『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』（監督：サム・レンチ）が発表され、同年10月13日に世界中の映画館で公開されました。さらに、2024年2月7日には、ウォルト・ディズニー・カンパニーがこの映画の定額制動画配信サービスでの配信を発表。同年3月15日よりDisney+にて見放題配信が開始され、より多くの人々がツアー体験を享受できるようになりました。

発生した主な出来事

大規模ツアーゆえに、予期せぬ、あるいは深刻な出来事も発生しました。

リオデジャネイロ公演での悲劇:
2023年11月17日のリオデジャネイロ公演では、記録的な熱波に見舞われる中、会場運営側による水筒の持ち込み禁止措置が問題となりました。長時間炎天下で待機し、会場内で水分補給が困難な状況下で、観客のアナ・クララ・ベネビデスさんが体調を崩し、搬送先の病院で亡くなるという痛ましい事故が発生しました。この事故を受けて、運営会社T4Fへの批判が集中し、刑事捜査が開始されました。スウィフトはベネビデスさんの死を悼み、翌日予定されていた公演を延期しました。

ウィーン公演におけるテロ計画の阻止:
2024年8月7日、オーストリアのウィーンでの公演を標的としたテロ計画が発覚しました。当局はイスラム国（ISIS）に関連するとみられる17歳と19歳の男2人を逮捕し、爆発物や関連物品を押収しました。米国諜報機関からの情報を受けたオーストリア警察と連携機関の迅速な対応により計画は未然に防がれましたが、オーストリア政府は詳細なテロ計画の存在を確認。イベント主催者は政府の判断に基づき、予定されていた3公演すべての中止とチケットの払い戻しを決定しました。逮捕された容疑者の目的は、ナイフや自作爆発物を用いて多数の人々を殺害することであり、17歳の少年は公演の数日前にスタジアムの警備員として潜入していたことも報じられています。

セットリストの変遷

ツアーの核となるのは、テイラー・スウィフトの各「時代」を反映した長大なセットリストです。ツアー期間中、セットリストは固定ではなく、いくつかの変更が見られました。特に、2024年4月に新たなアルバム『The Tortured Poets Department』がリリースされたことに伴い、パリ公演以降は同アルバムからの楽曲がセットリストに追加され、一部の既存セクションに変更が加えられました。また、特定の公演ではゲストアーティスト（例：フィービー・ブリジャーズ、ハイム）の出演に合わせて楽曲が変更されたり、場所固有のサプライズ楽曲が披露されたりするなど、柔軟な構成が採用されました。

「The Eras Tour」は、テイラー・スウィフトのキャリアを総括すると同時に、社会現象ともいうべき広範な影響力と記録的な成功を収めた、音楽史においても類を見ない大規模なイベントとなりました。

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