TownsGEAR

TownsGEAR（タウンズギア）は、1989年に発売された富士通のパーソナルコンピュータ、FM TOWNSシリーズに標準で搭載されていたマルチメディアオーサリングソフトウェアです。「GEAR」と略称されることも多く、資料によっては「TownsGear」と表記される場合もあります。

TownsGEARの最大の特徴は、専門的なプログラミングの知識がないユーザーでも、直感的な操作で自分だけのインタラクティブなコンテンツを作成できる点にあります。作品全体は一冊の「ノート」として扱われ、そのノートは複数の「ページ」で構成されます。各ページ上には、テキスト、画像、音声、動画、ボタンといった様々な「部品」を自由に配置していくことで、情報を統合し、ユーザーの操作によって異なるページへ移動したり、特定のメディアを再生したりといった仕掛けを持つ作品を生み出すことが可能です。この「ノート」「ページ」「部品」という構成や、カード型の画面遷移、プログラム知識が不要な点などが、Apple社のHyperCardに類似しているとして、「ハイパーカード的なソフト」、あるいはカラー表示に対応していることから「カラー版のハイパーカード」などと評されました。

TownsGEARにおける作品ファイルは「ノート」と呼ばれ、通常は「.GBX」という拡張子を持ちます。一般的なドキュメントファイルと異なり、単なる文字や絵だけでなく、音や動画データも作品内部に格納したり、外部ファイルを参照したりすることができます。また、「ノート・ウェア」という呼称で呼ばれることもありました。

ノートの種類には、いくつかの特別なものがあります。例えば、「もくじノート」は、特定のディレクトリ内に存在する全てのTownsGEAR作品（ノートファイル）へのリンクを自動的に集約して表示するノートです。ファイル名は「CONTENTS.GBX」に固定されており、各ディレクトリに一つだけ作成されます。そのレイアウトは通常のノートと同様に自由に編集できます。

また、新しいノートやページを作成する際に、雛形として利用できるのが「参照ノート」です。参照ノートとして指定したノートの特定のページを「マスターページ（Mページ）」として設定しておくと、新しいページを作成する際に、そのマスターページのレイアウトや共通して配置される部品を自動的に継承させることができます。これにより、複数のページでデザインや構成要素を統一したい場合に、効率的に作業を進めることが可能になります。

ページ上に配置される「部品」は、データの表示や操作の核となる要素です。テキストを表示する部品、画像を表示する部品、音声や動画を再生する部品など、様々な機能を持つ部品が用意されています。これらの部品は、データ自体をノートファイル内部に保存することも、ノートの外部にあるファイルをリンクすることもできます。特に、ページ間を移動したり、特定の動作を発生させたりするためには、「ボタン」という部品が用いられます。このボタン部品にアクションを設定することで、インタラクティブな要素を実現していました。

TownsGEARには、「GearBASIC」という独自のプログラミング言語が組み込まれていました。これは、より高度な処理や複雑なインタラクションを実装したいユーザー向けのもので、オブジェクト指向の考え方を取り入れたBASIC言語です。一般的なBASICにある行番号はなく、TownsGEARのノート、ページ、部品といったオブジェクトを直接操作するための専用コマンドが多数追加されていました。これにより、単純なオーサリング機能だけでは実現できない、より複雑なアプリケーションやゲームなども開発することが可能でした。

TownsGEARに関連するソフトウェアとして、さらにプロフェッショナルな用途を想定した「GearPower」というソフトもリリースされました。ただし、TownsGEARで作成した作品ファイルとの直接的な互換性はありませんでした。

TownsGEARの設計思想は、ハイパーテキストや、その具体的な実現の一つであるHyperCardといった概念と深く関連しています。情報を線形ではなく、ネットワーク状にリンクさせて閲覧するという考え方が、TownsGEARのページ間の移動やボタンによるインタラクションに反映されています。また、当時のパソコン雑誌などでも特集が組まれ、操作方法やGearBASICによるプログラミング技法などを解説する書籍も複数出版されました。

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