UniPhier

UniPhier（ユニフィエ）

UniPhierは、かつてパナソニック株式会社（旧松下電器産業）が2000年代後半から2010年代前半にかけて開発・展開した、デジタル家電向けの統合プラットフォームの名称です。その名称は、「Universal Platform for High-quality Image-Enhancing Revolution」の頭文字を取った略称です。

概要

UniPhierは、主要な処理を担うCPUとビデオコーデックなどを内蔵したシステムLSIと、これを制御するOSやミドルウェアなどのソフトウェアプラットフォームによって構成される、デジタル家電の基盤技術です。CPUには、ARMアーキテクチャまたはパナソニック独自の32bitアーキテクチャであるAMシリーズが採用されました。

1990年代後半から2000年代前半にかけて、携帯電話、DVDレコーダー、デジタルテレビといったデジタル家電は急速に普及しました。しかし、当時は製品ごとにハードウェアを設計し、その上で動作するマイクロコード、OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトウェアなどを個別に開発するのが一般的でした。家電のデジタル化が進み、機能が複雑化するにつれて、ソフトウェア開発にかかる負担は増大の一途をたどりました。

このような背景から、松下電器は幅広い製品に対応できる共通のプラットフォームを構築することで、ソフトウェア開発の効率を高めることを目指しました。この構想に基づき、自社のシステムLSI技術を基盤としたプラットフォームとして、2004年9月にUniPhierを発表しました。開発は社内カンパニーであるデバイス社が担当しました。

UniPhierによる統合プラットフォームでは、共通のハードウェア上に各製品独自のソフトウェア部分を開発するだけで済むため、開発期間の短縮やコスト削減が期待されました。UniPhierは、パナソニックが培ってきた高画質・高音質技術を集約した「高品位AV」処理、長時間の機器動作を可能にする「低消費電力」、複数のAV処理をスムーズに行うための「リアルタイム処理」、そしてコンテンツや個人データを保護する「セキュア機構」などの特徴を持っていました。

当初、UniPhierは携帯電話や高性能なホームAV機器など、様々な分野の製品に最適なシステムLSIとして選択されることを想定し、2007年以降は積極的に外販も行う方針でした。しかし、家電メーカー各社が既に独自のプラットフォームを持っていたことなどから、外販は三菱や東芝の一部機種で画像処理エンジンとして採用されるにとどまり、実質的にはパナソニック専用のプラットフォームとして展開されることになりました。

UniPhierは2005年頃からパナソニックの携帯電話や薄型テレビ「VIERA」、ブルーレイレコーダー「DIGA」などのデジタル家電に広く採用され、2000年代後半における同社のデジタル家電事業の躍進に貢献しました。これは、当時のパナソニックが進めていた重要技術の内製化・囲い込みを重視する「ブラックボックス戦略」の中核をなす技術と位置づけられていました。

しかし、2008年のリーマンショック以降、世界的な景気低迷や事業環境の変化により、パナソニックの半導体事業と家電事業は共に苦境に陥ります。海外メーカーの台頭、2011年のテレビの地上デジタル放送対応完了による特需の終了、従来型携帯電話（ガラケー）からスマートフォンへのシフトなど、複数の要因が重なる中で、パナソニックのテレビ事業は慢性的な赤字に陥りました。パナソニック製品でしか主に使われない「家電統合プラットフォーム」であるUniPhierのために、莫大な開発費がかかるシステムLSI事業は経営上の重荷となっていきました。

このような状況を受け、パナソニックは事業構造の変革を進めます。2013年10月には、半導体事業の重点を家電市場から車載・産業市場へ転換することを発表し、この頃にUniPhierプラットフォーム構想は打ち切られたとみられています。

2015年には、パナソニックは半導体事業の赤字を解消するため、システムLSI事業を分社化・再編しました。パナソニックのシステムLSI事業は、富士通のシステムLSI事業と統合され、「株式会社ソシオネクスト」が設立されました。この再編に伴い、UniPhierに関する権利はソシオネクストに継承されました。

現在のソシオネクストでは、「UniPhier」という名称は公式には用いられていませんが、かつてUniPhier構想で使われていたシステムLSIの系譜は続いています。ソシオネクストのカスタムSoC（System on Chip）事業は成功を収めており、テレビ・レコーダー向けのUniPhier系SoCは、パナソニックのVIERAやDIGAに引き続き採用されているほか、過去に独自のプラットフォーム開発から撤退したソニーやシャープなど、他社の製品にも広く採用されるようになっています。この点においては、UniPhierの技術は形を変えて普及し、ある意味で成功を収めたとも言えるでしょう。

歴史

2004年9月：UniPhierプラットフォームが発表される。
2005年頃：パナソニックの携帯電話、薄型テレビ「VIERA」、レコーダー「DIGA」などに採用が始まる。VIERAに搭載されていた高画質エンジン「PEAKSプロセッサ」などもUniPhierに統合される。
2006年：ワンセグ放送対応の携帯電話「P901iTV」に、携帯電話としては初めてUniPhierが搭載される。「P905i」以降はUniPhier搭載機が「VIERAケータイ」として展開される。
2006年：スクウェア・エニックスがミドルウェア「SEAD Engine」をUniPhierに提供することを発表。デジタル家電でのグラフィックス機能強化を目指す。
2007年：45nmプロセスで製造された新世代UniPhierをリリース。
2009年頃：UniPhierの技術的優位性がパナソニック製品の競争力に繋がっていると評価される。ブルーレイDIGAの低消費電力やコスト競争力に貢献。
2010年：32nmプロセスに微細化。世界初の「High-kメタル・ゲートファースト」プロセスで製造される。
2011年：インターネット対応スマートテレビ用UniPhier（MN2WS0220）を発表。メインCPUにARM Cortex-A9デュアルコアを採用。
2013年10月：パナソニックが半導体事業の重点を家電から車載・産業市場へ転換することを発表。UniPhier構想はこの頃打ち切られたとみられる。
2014年：UniPhier用システムLSIを製造していた魚津工場をタワージャズに売却。
2015年：パナソニックのシステムLSI事業が富士通のLSI事業と統合し、ソシオネクスト設立。UniPhierの権利はソシオネクストへ継承される。

主なプロセッサと搭載製品例

UniPhierプラットフォームでは、用途に合わせて様々なシステムLSIが開発されました。

携帯電話用

UniPhier M (P901iTVなど)
UniPhier 3M (P903iシリーズなど)
UniPhier 4M (P905i、P906iなど)
UniPhier 4MBB+ (P-01Aなど)

カーAV/ホームAV用

PH1-Lite II シリーズ (デジタルテレビ向け)
PH1-Pro シリーズ (ブルーレイレコーダー/プレーヤー、テレビ向けなど。DMR-BW200、DMR-BW800、DMR-BWT3000などに搭載)
スマートテレビ用UniPhier-DTV (MN2WS0220など。ARM Cortex-A9採用)
PH1-Pro4 (MN2WS0230、4K・多チャンネル対応)
高性能・合理化対応スマート端末用システムLSI PH1-sLD8 (MN2WS0270シリーズ、普及型スマート端末向け)
PH1-Pro5 (MN2WS0300、HEVC 4K/60pデコード対応)
4Kメディア再生用 1チップLSI (MN2WS03101AA、Blu-rayプレーヤー向け)

搭載製品例

パナソニック製デジタル家電（VIERA、DIGA、携帯電話、デジタルビデオカメラなど）
三菱電機 REAL Blu-ray (一部機種で画像処理エンジンとして搭載)
ソニー、シャープなど、2010年代後半以降の他社製テレビやレコーダーの一部