V・K・ムールティ

V・K・ムールティ

V・K・ムールティ（V. K. Murthy、1923年11月26日 - 2014年4月7日）は、インド映画界において革新的な映像表現を追求した著名な撮影監督です。特に、インド映画の巨匠グル・ダット監督との長年にわたる協業で知られ、数々の傑作の視覚的側面を支えました。彼のキャリアにおける特筆すべき功績は、インドで初めてシネマスコープ方式を採用した映画『紙の花』（原題：Kaagaz Ke Phool）を手掛けたことです。また、インド映画界への多大な貢献が認められ、2010年には撮影監督として史上初めて、インド映画における最高の栄誉とされるダーダーサーヘブ・パールケー賞を受賞しました。

生涯

生い立ち

ムールティは1923年11月26日、南インドの都市マイスールにあるバラモンの家系に生まれました。若い頃から音楽に親しみ、ラクシュミプラムの学校では音楽、特にヴァイオリンを専攻していました。その後、技術分野へと進路を変え、1946年にバンガロールのシュリー・ジャヤーチャマラージェーンドラ・ポリテクニック（現在の公立映画テレビ研究所）にて撮影技術のコースを修了しました。学生時代には、インド独立運動の高まりの中で活動に参加し、1943年には逮捕・投獄される経験もしています。卒業後、映画製作の世界での活躍を目指し、映画産業の中心地であったボンベイ（現ムンバイ）へと移住しました。

キャリア

映画業界での第一歩は、作品名『Maharana Prathap』への参加でした。撮影助手としての経験を積んだ後、1951年には映画『賭け』（原題：Baazi）で撮影監督V・ラトラ氏の助手としてクレジットされます。この作品での彼の仕事ぶりに感銘を受けたのが、同作の監督であったグル・ダットでした。ムールティのスムーズで流れるようなカメラワークは、グル・ダットの芸術的なビジョンと共鳴し、二人の間に強い信頼関係が築かれます。その結果、グル・ダットは自身の次作『網』（原題：Jaal）でムールティを撮影監督に抜擢しました。以降、ムールティはグル・ダット監督の右腕として、1964年に監督が死去するまでの全ての作品で撮影監督を務めることになります。

二人の協業はインド映画史に残る数々の傑作を生み出しました。1959年に公開された『紙の花』は、グル・ダットの最高傑作の一つと評されるだけでなく、インドで初めてシネマスコープが導入された画期的な作品です。ムールティはこの作品で広角レンズを駆使した壮大な映像美を実現し、フィルムフェア賞の撮影賞を受賞しました。また、1962年の『旦那様と奥様と召使い』（原題：Sahib Bibi Aur Ghulam）でも再びフィルムフェア賞撮影賞を獲得しています。この他にも、『渇き』（原題：Pyaasa）での陰影を強調した表現や、『表か裏か』（原題：Aar Paar）でのスタイリッシュな映像は高く評価されています。

ムールティは常に新しい技術の習得にも意欲的でした。ハリウッド映画『ナバロンの要塞』の撮影スタッフとして参加した際には、当時インドではまだ一般的ではなかったカラー映画の撮影技術を学ぶ機会を得ました。グル・ダットの死後も、彼は第一線の撮影監督として活躍を続けました。カマール・アムローヒー監督の壮大な歴史ドラマ『パーキーザ 心美しき人』（原題：Pakeezah）や『Razia Sultan』といった大作を手掛けたほか、プラモード・チャクラヴァルティー、シャーム・ベネガル、ゴーヴィンド・ニハラニ、ラージェーンドラ・シン・バーブなど、多様な監督の作品に貢献しました。

受賞と晩年

長年にわたるインド映画界での功績、特に革新的な映像技術と芸術性の追求が評価され、2010年にインド映画界最高の栄誉であるダーダーサーヘブ・パールケー賞が授与されました。これは、撮影監督としては史上初めての快挙であり、彼のキャリアにおけるハイライトの一つとなりました。2001年に撮影監督としての活動から身を引き、バンガロールに戻って静かに余生を過ごしました。そして、2014年4月7日、90歳でバンガロールにてその生涯を閉じました。

フィルモグラフィー（主な作品）

賭け（Baazi、1951年）※助手
網（Jaal、1952年）
鷹（Baaz、1953年）
表か裏か（Aar Paar、1954年）
55年夫妻（Mr. & Mrs. '55、1955年）
C.I.D.（1956年）
渇き（Pyaasa、1957年）
12 O'Clock（1958年）
紙の花（Kaagaz Ke Phool、1959年）
十四夜の月（Chaudhvin Ka Chand、1960年）
旦那様と奥様と召使い（Sahib Bibi Aur Ghulam、1962年）
Ziddi（1964年）
ラブ・イン・トーキョー（Love in Tokyo、1966年）
Suraj（1966年）
Naya Zamana（1971年）
Jugnu（1973年）
Nastik（1983年）
Kalyug Aur Ramayan（1987年）
Khule Aam（1992年）
Deedar（1992年）
* Hoovu Hannu（1993年）

V・K・ムールティは、その詩的で表現力豊かな映像と、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢によって、インド映画の映像表現のレベル向上に大きく貢献しました。グル・ダット作品の不朽の輝きは、彼の卓越した撮影技術なくしてはありえなかったでしょう。彼の遺した功績は、今なお多くの映画製作者に影響を与えています。

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