VPP

VPPシリーズ

VPP（ブイピーピー、Vector Parallel Processor）は、日本の電機メーカーである富士通が開発した一連の商用スーパーコンピュータシリーズの名称です。本シリーズは、ベクトル演算処理能力に優れたプロセッサを多数並列に接続することで、極めて高速な計算処理を実現することを特徴としていました。

歴史と進化

VPPシリーズの歴史は、1992年9月に発表されたFUJITSU VPP500から幕を開けました。VPP500は、発表当時、最大構成時（プロセッサユニット222個接続時）に355ギガFLOPSという世界最高水準の計算性能を達成したと謳われました。このプロセッサユニットは、ガリウムひ素(GaAs)LSIなどの先進技術を採用し、超高密度実装によって、単体でも最大1.6ギガFLOPSの性能を発揮しました。最小構成はプロセッサユニット7個から可能でした。

その後、プロセッサ技術の進化に伴い、CMOSプロセッサを採用したシリーズが登場します。

FUJITSU VXシリーズ: 1995年2月発表。搭載プロセッサ数1個から4個。
FUJITSU VPP300シリーズ: 1995年2月発表。搭載プロセッサ数4個から16個。
FUJITSU VPP700シリーズ: 1996年3月発表。最大512個までプロセッサを搭載可能。搭載プロセッサ数16個から512個。

これらのVX、VPP300、VPP700シリーズに搭載されたCMOSプロセッサは、単体で最大2.2ギガFLOPSの性能を実現しました。

さらに高性能化が進み、1999年4月には改良されたCMOSプロセッサを搭載したFUJITSU VPP5000シリーズが登場しました。VPP5000シリーズのプロセッサは、単体で9.6ギガFLOPSという、当時の技術水準を大きく引き上げる性能を達成しました。搭載プロセッサ数は2個から512個の範囲で構成されました。

主な適用分野

VPPシリーズの高性能は、特に大規模な数値計算を必要とする科学技術計算分野で活かされました。

数値流体力学: 航空宇宙工学における空力シミュレーション、気象予報など。
数値シミュレーション: 核融合研究、材料科学など。
分子動力学法: 分子化学における挙動解析など。

特筆すべき実績

VPPシリーズの代表的な実績の一つに、航空宇宙技術研究所（現JAXAの一部）と富士通が1993年に共同開発した「数値風洞システム（Numerical Wind Tunnel、NWT）」への採用があります。NWTには、VPPシリーズの様々な世代（VPP500, VPP300, VPP700, VPP5000）が継続して用いられました。

1993年2月1日にVPP500を用いて稼働を開始したNWTは、その高性能により、同年11月にはスーパーコンピュータの性能ランキングであるTOP500において、日本のシステムとして初めて世界第1位を獲得するという歴史的な快挙を成し遂げました。さらに、高性能計算の分野で権威あるゴードン・ベル賞を1994年、1995年、1996年と3年連続で受賞するなど、国際的にもその性能と成果が高く評価されました。

NWTで使用されていたコンポーネントの一部は、その歴史的価値が認められ、2008年9月12日にアメリカ合衆国のコンピュータ歴史博物館へ寄贈されました。これは、日本のスーパーコンピュータとしては初めての博物館への寄贈事例であり、VPPシリーズが日本の計算科学史において果たした役割の大きさを物語っています。

関連事項

富士通のスーパーコンピュータの系譜としては、VPPシリーズに先行するFACOMシリーズ、特にベクトル型スーパーコンピュータのFACOM VPシリーズやVP2000シリーズなどがあります。

VPPシリーズは、その先進的なベクトルパラレルアーキテクチャと卓越した計算性能により、日本の科学技術計算の発展に大きく貢献したシリーズと言えます。

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