WAGs

「WAGs」（ワッグス）とは、著名なスポーツ選手、特にサッカー選手の妻やガールフレンドを指す言葉です。これは "Wives And Girlfriends" の頭文字を取った略称で、元々は皮肉を込めた表現として、主人のご機嫌を伺い尻尾を振る犬（WAG）に例えられることもありました。この集団内には暗黙のヒエラルキーが存在するとされ、最上位が正式な「妻」、次いで「婚約者」、そして最も低い位置が「ガールフレンド」であると認識されています。

言葉の起源と広がり

この言葉が広く知られるようになったのは、2006年にドイツで開催されたFIFAワールドカップの際です。当時のイングランド代表選手の妻や恋人たちが、大会期間中にその華やかな容姿だけでなく、高級ブランド店での豪遊ぶりや夜間の派手な行動が連日タブロイド紙の紙面を飾り、大きな注目を集めたことに端を発します。ワールドカップ終了後、「WAGs」という言葉はイングランド代表に限らず、他の国の選手や、サッカー以外のスポーツ選手、さらには監督のパートナー全般を指すまでに対象が広がっていきました。特にサッカーにおいては、ワールドカップやUEFA欧州選手権のような主要な国際大会が近づくと、再び彼女たちにスポットライトが当たり、新聞やゴシップサイトで特集されることが多くなります。

社会的背景とパートナーの多様性

プロスポーツ界、特にアメリカの四大スポーツ（バスケットボール、野球、ホッケー、アメリカンフットボール）のトップ選手は平均年収が数億円に達する億万長者であり、多くの女性からアプローチを受ける立場にあります。そのため、彼らの妻やガールフレンドという地位を得るための競争も非常に激しいと言われています。

彼女たちの多くは一般人ですが、際立った美貌を持つパートナーや、元々芸能人として活躍していた女性も少なくありません。国外には、WAGsの情報を集めた専門のウェブサイトも複数存在します。しかし、日本のプロスポーツ選手の場合、特に一般人の妻や子供のプライバシー保護に対する意識が強く、名前が公表されることはあっても（クラブの公式サイトなどで）、顔写真が出回ることは稀です（出たとしても目の部分が隠されるなどの配慮が見られます）。

公に姿が判明する機会

選手のパートナーや子供たちの姿が明らかになるのは、主に特定の公的な場です。例えば、所属クラブが主催するパーティーや、リーグ優勝後の祝賀セレモニー、選手自身の結婚式やチームメイトの結婚式などが挙げられます。近年では、FIFAバロンドールのような個人賞の授賞式にパートナー同伴で出席する選手も増えています（かつてクリスティアーノ・ロナウドが恋人や家族と出席した例など）。ドイツの強豪クラブ、バイエルン・ミュンヘンの関係者は毎年10月のオクトーバーフェストにパートナーと民族衣装姿で参加することが恒例となっており、この機会に姿が判明することも多いです。マンチェスター・ユナイテッドなどもユニセフとのチャリティイベントにパートナー同伴で出席する関係者がおり、その場で姿が確認されることがあります。また、私生活においては、バカンス中やデート中のパパラッチ写真によって発覚することもあります。

関係性の多様性

選手とパートナーの関係性は多様です。子供がいるにも関わらず、法的な結婚手続きをせずに事実婚を選択するカップルも多く見られます。特に北欧諸国ではこれが主流とされていますが、ドイツやイタリアなどの欧州諸国では離婚手続きに時間がかかるため、長期間の交際や同棲を経てから結婚に踏み切るケースが多いようです。

WAGsに関連する活動事例

WAGsは時に社会的な活動やメディア露出を伴うことがあります。

勝利祈願ヌード：2004年のユーロ前、ロシア代表選手の妻や恋人たちが親善試合の敗戦を受け、チームに活を入れる目的で写真家の提案によりコムソモルスカヤ・プラウダ紙でヌードを披露したことがありました（局部はパートナーのプラカードで隠されていました）。しかし、選手側の乗り気でない反応もあってか、チームの成績向上には繋がらず、グループリーグで敗退しています。
チャリティカレンダー：2006年W杯で優勝したイタリア代表選手の当時の妻や恋人たちが、チャリティ目的で2007年度のモノクロカレンダーを発売したことがあります。リッピ前監督の妻子も参加し、ノンヌードであったため選手の賛同も得られやすかったとされています。
リアリティ番組出演：2007年にはイギリスで「WAGs Boutique」というリアリティ番組が放送されました。マイナーな知名度のWAGs10人が2チームに分かれてブティック経営を競う企画でしたが、番組中には参加者の過去の交際関係が報じられたり、交際相手の選手と破局したりといった出来事もありました。

パートナーの背景とキャリア

WAGsの背景は様々であり、そのキャリアにも変化が見られます。

一般人パートナー：選手の半数以上は一般人女性と結婚していると言われています。一般人出身でも、カカの元夫人カロリーネ・セリコのように後に歌手デビューするなど、知名度を得て活動する例もあります。幼少期からの幼馴染や学生時代の同級生と結婚する選手も多く（マイケル・オーウェン、ウェイン・ルーニー、リオネル・メッシなど）、交際開始時は一般人だったが、メディアに注目されることで有名になり、モデルなどの仕事が増えるケースも見られます（ウォルコット夫人、ルーニー夫人など）。
芸能人パートナー：芸能人として活動するWAGsもいます。交際前は知名度が低かった女性が、有名選手との交際を機に仕事が増え、ギャラが倍増するパターンが多く見られます（トッティ夫人イラリー・ブリージなど）。ただし、これを選手を利用した「売名行為」と見なす批判も多く、注目を避けるために交際関係を隠したり、結婚を機に引退したりする女性もいます。一方で、デビッド・ベッカムの妻ヴィクトリア・ベッカムやジェラール・ピケの恋人シャキーラのように、交際前から世界的な知名度を持つ芸能人も存在します。日本の選手では、三浦知良がモデルの設楽りさ子と、中山雅史が俳優の生田智子と結婚するなど、芸能人との結婚例があります。

関係性の問題と批判

選手のパートナーという立場ゆえに、様々な問題に巻き込まれることもあります。

浮気と破局・離婚：選手の浮気が原因でパートナーとの関係が悪化し、離婚に至るケースは少なくありません。ティエリ・アンリ、ロナウド、アシュリー・コール、フランク・ランパードなどの著名な選手も、浮気が報じられて関係が破綻した事例があります。慰謝料請求や親権争いに発展することもあります。
異文化不適応：選手が海外リーグへ移籍した場合、パートナーが異国の生活に馴染めずに帰国したり、同行を拒否したりすることで、単身赴任となり関係が疎遠になって破局に至る例も報告されています。
メディアによるトラブル：リアリティ番組出演中に人種差別発言で問題になったダニエル・ロイドのように、メディアへの露出が原因で自身のキャリアだけでなく、交際相手の選手にも悪影響を及ぼし、破局に至るケースもあります。
* 選手への影響と批判：WAGsの存在が選手の私生活やキャリアに影響を及ぼすことに対し、批判的な意見もあります。サンダーランドのロイ・キーン元監督は、パートナーの意向に左右される選手を「軟弱」だと批判したことがあります。また、歌手のリリー・アレンは著名なWAGsを「個性が無い」と批判しています。

特に選手の移籍において、パートナーの意向が決定に影響を与えたとされる事例は度々報じられています。デビッド・ベッカムがレアル・マドリードへ移籍した背景には、妻ヴィクトリアとの派手な生活やそれに起因する監督との関係悪化があったとされ、監督が選手の私生活に干渉するようになったとも言われています。ルイス・フィーゴがミラノ行きを決めたのは、モデルの妻がミラノでの仕事を希望したためだと報じられたこともあります。アンドレイ・シェフチェンコがチェルシーに移籍した理由の一つに、妻の勧めがあったとされており、移籍後の不振に対して元監督から皮肉を言われる事態となりました。アシュリー・コールも、当時の妻が自身のキャリアのために夫のレアル・マドリード行きを断念させたことを後に語っています。

WAGsは、有名スポーツ選手という特殊な環境におけるパートナーたちの存在であり、その華やかさ、多様な背景、そして選手本人や周囲に与える影響力から、常に世間の注目を集める存在と言えるでしょう。

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