X-30 (宇宙船)

X-30 (NASP)

X-30は、かつてアメリカ合衆国で計画された先進的な宇宙航空機、いわゆるスペースプレーン構想の一つです。正式名称はNASP（National Aero-Space Plane）計画と呼ばれ、大気圏内からそのまま宇宙へ到達し、再び大気圏へ帰還できる単段式宇宙輸送機（SSTO）としての能力を目指していました。発表当初には、極東とアメリカ本土をわずか2時間で結ぶ極超音速旅客機としての側面が強調され、「オリエント・エクスプレス」という華やかな愛称でも呼ばれましたが、最終的には構想の段階で計画は中止され、実機が製造されることはありませんでした。

歴史

この壮大な計画の発端は、冷戦時代の戦略的な動きにあります。1980年代、当時のレーガン政権は戦略防衛構想（SDI）を推進する中で、宇宙へのアクセス能力向上や高速輸送手段の必要性を認識していました。国防高等研究計画局（DARPA）が1982年から水面下で検討を進めていた超高速飛行体の概念が、1986年にNASP計画として大々的に発表されます。その目標は極めて野心的で、大気圏外をマッハ25という驚異的な速度で飛行可能な極超音速旅客機を実現し、世界の主要都市間を劇的に短縮された時間で結ぶことでした。特に、極東地域とアメリカ合衆国本土間を2時間で結ぶという目標は、実現すれば国際移動に革命をもたらすと期待され、「オリエント・エクスプレス」という名前がその象徴となりました。

計画当初、X-30はこのNASP計画を実現するための研究機として位置づけられ、1990年代末の就役、そしてそれに先立つ1992年には初飛行が予定されていました。開発費用はアメリカ航空宇宙局（NASA）と国防総省が共同で負担することになり、多数の航空宇宙企業の中から、1987年にはジェネラル・ダイナミクス、ロックウェル・インターナショナル、マクドネル・ダグラスの3社が主要な開発候補として選定されます。

しかし、計画は次第に当初の予定から遅れ始め、目標とする就役時期も2000年以降へとずれ込んでいきました。最大の課題となったのは、その実現に必要な技術の未成熟さと、それに伴う開発費の高騰です。年間で100億ドルから200億ドルもの巨額な費用が必要と試算される状況に対し、議会は難色を示します。最終的に、1994年にアメリカ議会はこの計画に対する予算の計上を否決し、NASP計画、そしてX-30の開発は中止される運びとなりました。

計画中止の背景には、マッハ25での飛行を可能にするスクラムジェットエンジンの開発や、極超音速飛行時に発生する膨大な熱に耐えうる新型素材の開発が、計画期間内に完了できなかったことが挙げられます。要素技術のブレークスルーが実現せず、その不確実性が計画全体の実現性を大きく損なったのです。ただし、NASP計画で培われた極超音速やスペースプレーンに関する研究は、その後の様々な計画や研究へと引き継がれています。

形状構想

X-30は実機が製造されなかったため、その具体的な形状は設計案や想像図としてのみ存在します。計画が比較的初期の段階で中止されたこともあり、公式な確定設計は存在せず、残されている想像図には複数のバリエーションが見られます。これは、選定された各社がそれぞれ異なる設計案を提示していたためです。代表的な3社の構想概要は以下の通りです。

ジェネラル・ダイナミクス案: 比較的扁平なリフティングボディ形状を持ち、小さな主翼と垂直尾翼が取り付けられています。機体下部には箱型のスクラムジェットエンジンが突き出すように配置されており、この案に基づいたモックアップが製作されたことがあります。
マクドネル・ダグラス案: ジェネラル・ダイナミクス案と多くの点で類似していますが、機首の形状などが異なっていました。旅客機型の構想のほか、貨物輸送を目的としたバリエーション案も検討していたとされています。
ボーイング案: 上記2社の案とは異なり、胴体が円筒形をしており、主翼は胴体下部に配置された低翼のデルタウィング形状でした。垂直尾翼は単尾翼構造です。発表当初に示された想像図の中には、アメリカ大統領専用機を思わせる「エアフォースワン」塗装が施されたものもありました。

これらの構想図は、当時の技術的な挑戦と、実現すれば全く新しい空の旅をもたらすはずだったX-30の夢を今に伝えています。

諸元（計画値）

以下に、マクドネル・ダグラス案など、計画段階で想定されていた諸元を示します。

全長：43.05 m
全幅：10.38 m
翼面積：126.3 m²
エンジン：スクラムジェットエンジン × 6基
最大速度：マッハ25
* 乗員：2名

これらの数値はあくまで計画上の目標であり、実際の性能を示すものではありません。

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