X-32 (航空機)

X-32：試作戦闘機の概要と特徴

X-32は、アメリカのボーイング社が開発した試作戦闘機であり、統合打撃戦闘機（JSF：Joint Strike Fighter）計画にもとづく試作実験機（概念実証機）です。この機体は2つのバリエーション、すなわち通常離着陸型/空母離着陸型のX-32Aと、短距離離陸垂直着陸型のX-32Bが開発されました。X-32Aは2000年9月に初飛行し、X-32Bは2001年3月に初飛行を果たしましたが、最終的にはロッキード・マーティン社のX-35がJSF計画の採用機体として選ばれたため、X-32は不採用となりました。

開発背景

JSF計画は、アメリカ空軍のF-16、海軍・海兵隊のF/A-18、さらにはイギリスのハリアーIIの後継機を対一機種で統合することを目指して立案されました。そのための開発費として、ボーイング社とロッキード社には合計で7億5,000万ドルが提供されました。いわば、次世代戦闘機の革新を目指したプロジェクトだったといえるでしょう。

この計画に参加したボーイング社は、その概念実証機をX-32と名付けました。X-32Aが初飛行を行ったのは、2000年9月18日のことです。続いてX-32Bは、2001年3月13日に初飛行し、両機体はロッキード社製のX-35との比較試験に参加しました。しかし、エンジン配置や垂直離着陸方式に関する課題から、X-35が採用される結果となりました。これによりX-32は開発の目的を達成できず、計画から外れる運命をたどることになります。

機体の特徴

外見上の大きな特徴として、X-32は無尾翼デルタ翼構造を採用していることが挙げられます。この設計は、ステルス性を高めるために選ばれたものです。X-32は、他の設計と比べて優れたステルス性を持っていたとも言われています。しかし、この無尾翼デルタ形式は低速での揚力を確保しづらく、特に艦上機としての性能において不利な面がありました。そこで、主翼の前端にはエイペックス・フラップを装備し、機首を上げる際の不利を軽減しました。

さらに、X-32の下部には大型の空気取り入れ口が設けられ、これは垂直離着陸の際に多くの空気を取り入れるためのものでした。しかし、ホバリングテスト時には、超音速飛行に適した形状にするために一部の装置が取り外され、これもまた設計への影響を及ぼしました。

主翼には炭素繊維複合材が使用されており、全体の軽量化と強度確保が図られています。また、X-32はキャノピーや前脚に他機種の部品を流用しており、これにより製造コストの削減が期待されました。

エンジンと性能

搭載エンジンは、プラット・アンド・ホイットニー製のF119ターボファンエンジンで、優れた推力性能を有しています。特にX-32Bのリフトノズルは、ジェット排気を下向きに向ける直接排気方式を採用し、ここでも設計上の工夫が見られます。これにより、搭載機能の複雑さを和らげながらも、性能の高い垂直離着陸を支援する結果となりました。

実際のスペックとしては、X-32の全長は約15.47m、翼長は約10.97mで、最大離陸重量は17,200kgにまで達します。エンジンの推力は、アフターバーナー使用時に約191.35kNで、最高速度はマッハ1.6（1,200mph）にも及びます。

武装

X-32は、M61A2機関砲を1門、AIM-120 AMRAAMミサイルを4発搭載する能力を持ち、戦術的な攻撃能力も兼ね備えています。

まとめ

X-32は、次世代戦闘機の開発の一環として、ステルス性や多用途性に優れる理想的な設計を目指した機体でしたが、最終的には競争相手に敗れ、不採用に終わりました。その開発過程は、戦闘機技術の革新をめざす過程での試行錯誤の一環として興味深いものです。

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