X1 (コンピュータ)

パソコンテレビX1シリーズ：シャープの挑戦と革新

1982年、シャープは既存のパソコン市場とは一線を画す革新的なパソコン「X1」シリーズを発表しました。その最大の特徴は、パソコンとテレビを融合させた「パソコンテレビ」というコンセプトです。専用ディスプレイテレビと組み合わせることで、テレビ画面とパソコン画面の重ね合わせ表示（スーパーインポーズ）を実現しました。

テレビとの連携：新しいコンピューティング体験

X1は単なるパソコンではありませんでした。テレビとの連携機能は、当時のパソコンにはない画期的なものです。専用のディスプレイテレビやオプションのデジタルテロッパーを使用することで、スーパーインポーズを実現。さらに、パソコンのサブ電源をオフにした状態でも、内蔵マイコンによる制御でテレビのチャンネルや音量を操作できるなど、革新的なインターフェースを提供しました。本体にはテレビタイマーエディタが内蔵され、最大7件の予約録画をプログラム可能。AV機器としての側面も強く、本体、キーボード、ディスプレイテレビ、FDD等の横幅を統一するなど、デザインにもこだわっていました。

ホビー用途への特化：ゲームに強いパソコン

X1は、当時の汎用パソコンとは異なり、ホビー用途、特にゲームに特化した設計がなされていました。CPU速度や解像度は同時代の機種とほぼ同等でしたが、独自の機能によりゲームで高いパフォーマンスを発揮しました。

テキストおよびグラフィック

ソフトウェアで再定義可能なPCG（Programmable Character Generator）により、ピクセルごとに任意の色を指定できる8×8ピクセルの256種類のパターンを表示可能。テキストとグラフィックの優先度を任意に設定することで、背景画像の上をキャラクターが動くような表現も容易に実現できました。競合機種ではソフトウェアによる合成処理が必要だった高度なグラフィック表現を、比較的少ない処理量で実現しました。

サウンド

3重和音8オクターブのPSG（Programmable Sound Generator）を標準搭載。これは、当時、ホビー用途以外ではオプション扱いされることの多かった機能です。ただし、安定した音楽再生には、ミリ秒単位での周期的なPSG操作が必要だったため、CPUクロックを計算したプログラム記述や、映像同期信号の変化監視が必要でした。この問題は、FM音源ボードなどの拡張ボードを追加することで解決されました。

入力装置

2ポートのジョイスティックポートを標準搭載。ATARI仕様準拠のコネクタを採用し、多くのジョイスティックが使用できました。X1Gではファミコンコントローラーに似たジョイスティックが標準添付されました。当時、パソコンゲームはキーボード操作が一般的でしたが、X1はジョイスティックによる操作を積極的に推奨し、ゲーム体験の向上に貢献しました。

I/O空間の利用

X1は、Z80 CPUの拡張仕様を利用し、VRAMをI/O空間に直接マッピングしました。この設計により、メインメモリ空間のバンク切り替えが不要になり、常に64KBのメインメモリ空間と48KBのVRAM空間にアクセスできるというメリットがありました。競合機種よりも高速なメモリアクセスを実現しましたが、アドレス指定の複雑さやグラフィックス制御の煩雑さといったデメリットも存在しました。

クリーン設計とIPL-ROM

電源投入直後にIPL（Initial Program Loader）が起動し、FDD、拡張ROMボード、カセットテープの順にブートを試みます。応答がない場合は、ブートデバイスやテレビタイマーエディタを選択するメニューが表示されます。MZシリーズと同様にクリーン設計を採用し、本体にシステムプログラムを直接持たない設計となっています。初期はカセットテープが標準で、BASIC起動に数分かかるというデメリットがありましたが、FDDとDISK-BASICの利用、またはBASIC搭載ROMボードの追加により、起動時間を短縮することができました。カセットテープの転送速度は同時期の競合製品の2～3倍と高速で、プログラムによるデッキ制御も可能でした。フロッピーディスクの普及の後押しを受け、X1Dでは3インチFDDを搭載するも、すぐに5.25インチFDDへと移行し、ソフトウェア資産の形成は遅れました。

リセットボタン

X1turbo以前のモデルはNMIリセットボタンのみでしたが、X1turbo以降はIPLリセットボタンが追加され、より安全なリセットが可能となりました。

X1シリーズの進化：多様なモデルと拡張性

X1シリーズは、初代機からX1turboZ IIIまで、様々なモデルが発売されました。基本仕様は上位互換性を維持しつつ、機能拡張や標準装備の追加が行われました。本体一体型、分離型、FDD搭載モデルなど、ユーザーのニーズに合わせた機種展開が行われ、オプションを追加することで初代機X1でも長期間使用可能でした。しかし、1984年に発売されたX1turboシリーズ以降は、turboシリーズ専用のソフトウェアが増え、初代X1は徐々に市場から姿を消していきました。

X1シリーズの主要モデル

X1: 初代機。赤、白、銀の3色。
X1C: 本体・キーボード一体型。プロッタプリンタ内蔵可能。
X1D: 3インチFDD搭載。
X1Cs/Ck: X1Cを拡張したモデル。Ckは漢字ROM搭載。
X1F: NEW BASIC搭載。
X1G: 縦置き可能。ファミコンタイプのコントローラー同梱。
X1 twin: X1とPCエンジン（HEシステム）を融合させたハイブリッド機。

非公式モデル

ハドソンによる高速化改造機「X1R」や、ユーザーによる改造機「X1DX」「X1DII」なども存在しました。

X1turboシリーズとX1turboZシリーズ：さらなる高みへ

X1turboシリーズは、X1の上位互換機として1984年に登場しました。CTC、DMA、SIOなどの機能が追加され、パフォーマンスが大幅に向上。黒色が標準色となり、ビジネス用途も意識したモデルも発売されました。

X1turboシリーズの主要モデル

X1turbo: 初代機。
X1turbo II: 廉価モデル。
X1turbo III: FDDを2HD/2D両対応に変更。
X1turbo model40: ビジネス仕様機。

X1turboZシリーズは、1986年に発売されたX1シリーズの最上位機種です。4096色同時表示、アナログRGB出力、FM音源搭載など、高度なAV機能を搭載しました。しかし、競合機種との性能差やソフトウェア不足により、市場での成功は限定的でした。

X1turboZシリーズの主要モデル

X1turboZ: 初代機。
X1turboZ II: 拡張RAM搭載。
X1turboZ III: X1シリーズ最終モデル。

まとめ

X1シリーズは、シャープの技術力とホビー市場への強い意欲を示す、ユニークなパソコンでした。テレビとの連携機能や、ゲームに特化した設計、そして多様なモデル展開は、当時のパソコン市場に大きなインパクトを与えました。X1シリーズは、その独特の個性と革新的な技術によって、多くのユーザーを魅了し、日本のパソコン史にその名を残すこととなりました。X68000へと受け継がれる技術的流れも、X1シリーズの歴史的意義をさらに高めています。

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