YF-40

YF-40液体燃料ロケットエンジン

YF-40は、中華人民共和国において開発された信頼性の高い液体燃料ロケットエンジンの一つです。このエンジンは、特定の長征シリーズのロケットに搭載され、宇宙へのペイロード輸送において重要な役割を担っています。

エンジンの基本構成と推進剤

YF-40エンジンは、非対称ジメチルヒドラジン（UDMH）を燃料とし、四酸化二窒素（N2O4）を酸化剤として使用します。これらの推進剤の組み合わせは、常温で液体として取り扱いが可能であり、ロケットに燃料を充填した状態で比較的長期間保管できるという特徴があります。これは、即応性を求められる軍事用ロケットや、打ち上げ準備期間に柔軟性を持たせたい場合に有利に働きます。

推進剤の特性

UDMH (非対称ジメチルヒドラジン): ヒドラジン系の燃料で、比較的高密度かつ高エネルギーです。毒性が強いという欠点がありますが、N2O4と接触すると自然に着火する（自己着火性）ため、複雑な点火装置を必要としません。
N2O4 (四酸化二窒素): 強力な酸化剤であり、UDMHと同様に常温で液体です。非常に腐食性が強く、取り扱いには特別な注意が必要ですが、UDMHとの自己着火性によりエンジンの始動プロセスを簡略化できます。

燃焼サイクル

YF-40エンジンは、ロケットエンジンの燃焼サイクルとして「ガス発生器サイクル」を採用しています。このサイクルでは、推進剤の一部を少ない比率で燃焼させて高温・高圧のガス（タービン駆動ガス）を生成し、そのガスを用いて燃料ポンプと酸化剤ポンプを駆動するタービンを回転させます。タービンを回した後のガスは、主燃焼室には送られずに外部へ排出されます。この方式は、複雑な配管や制御を要するエキスパンダーサイクルや二段燃焼サイクルに比べて構造が比較的単純であり、高い信頼性を実現しやすいという利点があります。一方で、タービン駆動ガスを外部に排出するため、エンジンの比推力（燃費効率に相当）は理論的には他のクローズドサイクル方式よりわずかに低下します。

エンジン構造

YF-40の大きな特徴の一つは、2つの独立した燃焼室を備えていることです。これにより、エンジン全体の推力を複数の燃焼室で分担し、設計の柔軟性を高めています。また、これらの燃焼室はそれぞれジンバル機構によって支持されています。ジンバル機構とは、燃焼室の向きを軸に対して傾けることができる機械的な仕組みです。ロケットの飛行中に、搭載されたコンピュータからの指令に基づいて各燃焼室の角度を微妙に調整することで、エンジンの推力方向を変化させ、機体の姿勢制御や軌道修正を行います。2つの燃焼室それぞれにジンバル機能を持たせることで、より細やかで確実な姿勢制御が可能となります。

開発経緯と運用

YF-40エンジンの原型は、中国の初期の人工衛星打ち上げ用ロケットである長征1号Dの第2段エンジンとして開発されました。その後、改良が加えられ、長征ロケットシリーズの信頼性向上に貢献しました。特に、長征4号シリーズにおいては、その第3段エンジンとして採用されています。長征4号は主に太陽同期軌道への衛星打ち上げに使用されるロケットであり、YF-40エンジンはその軌道投入段階において正確な推力と姿勢制御を提供し、ミッションの成功に不可欠な役割を果たしています。

長年の運用実績を通じて、YF-40はその堅牢性と信頼性を実証してきました。UDMH/N2O4推進剤、ガス発生器サイクル、そして2つのジンバル燃焼室という組み合わせは、特定のペイロードや軌道への打ち上げにおいて、コスト効率と性能のバランスの取れたソリューションを提供しています。YF-40は、中国の宇宙開発能力を支える基盤技術の一つと言えるでしょう。

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