YJ-12 (ミサイル)

YJ-12 空対艦ミサイル

概要

中華人民共和国が開発したとされる超音速空対艦ミサイルがYJ-12です。このミサイルに関する公式な情報は限定的であり、その詳細な性能や設計については不明な部分が多いのが現状です。しかし、断片的な情報や公開された資料から、その特徴や能力の一端がうかがえます。このミサイルは、中国人民解放軍の対艦攻撃能力を強化する主要な兵器の一つとして注目されています。

設計と推進方式

YJ-12は、展示された模型の情報から、ラムジェット推進システムを採用していると考えられています。ラムジェット推進は、高速飛行時に外部から取り込んだ空気を圧縮・燃焼させる効率的な推進方式であり、超音速飛行を可能にする上で有利です。模型の設計を見ると、ミサイルの後部にはX字状に配置された4枚の安定フィンがあり、機体側部には方形の空気取り入れ口が左右に二ヶ所設けられています。また、ラムジェットの点火に必要なブースターも機体と一体化された設計となっていました。

ただし、2013年にインターネット上に流出した、YJ-12とされるミサイルの写真には、この模型とは大きく異なる外観のものが写っていました。写真のミサイルは、X字状に配置された4本の長方形の構造物（これが空気取り入れ口なのか、あるいは補助推進装置なのかは定かではありません）を持ち、それぞれに2枚ずつ、合計8枚の安定フィンが付いているように見えます。この設計の差異は、開発段階におけるバリエーションや改良を示唆する可能性もあれば、あるいは写真のミサイルが別の型である可能性も排除できません。このデザインの相違は、外部からの情報分析を難しくしている要因の一つです。

推定される性能と射程

YJ-12の性能についても公式発表は少なく、専門家の推測に依る部分が大きいのが現状です。アメリカの軍事専門家であるリチャード・フィッシャー氏の分析によれば、中国の主力爆撃機であるH-6Kに搭載された場合、その射程は最大で400kmに達する可能性があるとされています。さらに、飛行速度によって射程が変動するとの推測もあり、マッハ3での飛行時には約300km、マッハ4に達した場合には約400kmの距離をカバーできるとの見方もあります。これらの数値が正確であれば、YJ-12は敵の艦隊に対し、その防御圏外からの攻撃を可能とする「スタンドオフ能力」を持った、脅威度の高い兵器と言えます。

想定される攻撃方法

YJ-12が採用する可能性のある攻撃方法は、大きく分けて二つのパターンが推測されています。これは目標や戦術に応じた柔軟な運用を可能にするものです。

一つ目のパターンは、目標への接近段階で低高度を巡航する方式です。具体的には、高度12〜15mという海面すれすれの低空をマッハ約1.5という比較的抑えられた速度で飛行します。これにより、敵のレーダーによる探知を避ける「ステルス性」を高める効果が期待できます。目標に十分に接近した後の終末誘導段階では、さらに高度を3〜5mへと下げ、同時にエンジンを最大加速させ、マッハ3から3.5という超音速で目標に突入します。この攻撃パターンの射程は約150kmと推定されていますが、低空・超音速での最終突入は迎撃を困難にする要素となります。

もう一つのパターンは、高高度を高速で巡航する方式です。これは、高度約15kmを高速で飛行し、可能な限り遠距離から目標に接近することを目的としています。終末誘導段階では、一つ目のパターンと同様に海面すれすれを飛行するシースキミング攻撃に移行するか、あるいは目標の真上まで飛行し、上方から垂直に近い角度で突入するダイブ攻撃を行うかの選択肢があると推測されています。この高高度巡航パターンを用いることで、YJ-12は最大300kmの射程を達成できると見られています。高い高度からの接近は、より広範囲を捜索し、遠距離から目標を捉える上で有利となる場合があります。

派生型と実戦配備

YJ-12ミサイルは、その基本設計を基に、他の種類のミサイルが開発される「ファミリー化」が進められているとも伝えられています。特に、敵のレーダーシステムを攻撃することを目的とした対レーダーミサイルが開発されている可能性が指摘されています。これは、YJ-12の超音速飛行能力を対レーダー攻撃に応用しようとする動きと考えられます。

YJ-12が中国軍の兵器として実戦配備されたことは、2015年に行われた中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念式典における軍事パレードで確認されました。このパレードでの公開は、YJ-12が開発段階を終え、正式に部隊へ配備・運用されていることを示す重要な出来事となりました。これにより、YJ-12は中国人民解放軍の対艦攻撃能力を担う主要な一員となったことが明らかになりました。

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