YM2608

YM2608（OPNA）: 拡張された機能を持つFM音源チップ

YM2608、別名OPNA（FM Operator type N-A）は、ヤマハが開発したFM音源チップです。1987年、NECのPC-8801FA/MAのサウンド機能強化を目的として開発されました。前身のYM2203とソフトウェアレベルでの互換性を維持しつつ、大幅な機能拡張が図られています。

YM2608は、4オペレータのFM音源6チャンネル、3チャンネルのSSG音源、1チャンネルのADPCM音源、そして6音色のリズム音源を搭載しています。SSG音源を除く全ての音源はステレオ出力に対応し、より豊かなサウンド表現を可能にしています。内部には2系統のプログラマブルタイマーと8bitのI/Oポートも備え、8MHzのマスタークロックで動作します。電源電圧は5V単一電源で、パッケージは64ピンSDIP（YM2608B）です。2チャンネル出力の専用DACであるYM3016と組み合わせて使用されます。

各音源部の詳細

FM音源: YM2203の3チャンネルから6チャンネルへと大幅に増強され、ステレオ出力に対応しています。各音色のパラメータにはLFO（Low Frequency Oscillator）機能が追加され、より複雑で奥行きのある音作りが可能になっています。

SSG音源: YM2203と同様の機能を備えていますが、3チャンネルの音声が内部でミックスされて出力されます。

リズム音源: バスドラム、スネアドラム、ライドシンバル、ハイハット（クローズ）、タムタム、リムショットの6種類の波形を独立して制御できるチャンネルが備わっています。タムタムの音程は固定ですが、全てのチャンネルでボリューム調整とパンニングが可能です。

ADPCM音源: 4bitのADPCM音源は、2kHz～16kHzのサンプリングレートに対応し、CPUメモリと波形専用メモリへのアクセスが可能です。外部メモリは最大256KiBまで使用でき、再生周波数は2kHz～55.5kHzの範囲で自由に設定できるため、音程の変化も可能です。

後継チップ: YMF288（OPN3-L）

YMF288は、YM2608の後継チップとして開発されました。NEC PC-9800シリーズでの使用を想定し、不要な機能を削除することで小型化されています。SOP28（YMF288-M）とQFP44（YMF288-S）の2種類のパッケージが用意され、SOP28はNEC、QFP44はサードパーティ向けに供給されました。

YM2608からの主な変更点は以下のとおりです。

AY-3-8910互換のパラレルI/Oポートの削除
低消費電力のスタンバイモードの追加
新規レジスタセット「YMF288モード」の追加
FM音源部とSSG音源部のデジタル出力への変更（汎用DACの使用が可能に）
レジスタアクセス時のウェイトタイムの大幅削減
ADPCM/PCM機能、CSMモード、プリスケーラ機能の削除（互換性維持のためレジスタは残るが機能しない）

これらの変更により、消費電力の削減とコストの低減が実現されています。

搭載機種

YM2608は、NECのPC-8800シリーズ（PC-8801FA/MA/MA2/MC/PC-88VA2/VA3）やPC-9800シリーズ（PC-98DO+、PC-98GS、PC-9821シリーズ）などに搭載されました。 オプションボードとして提供されたケースや、拡張ボード「PC-9801-73」「PC-9801-86」などにも使用されています。また、アーケードゲーム機であるジャンボヘキサにも搭載されました。

YMF288は、PC-9801-86互換音源ボードの一部（BUFFALO製SRN-F、SXM-Fなど）、QvisionのWaveStarやWaveSMIT、PC-9821シリーズの一部機種、X68000用音源ボードなど、幅広い機種に搭載されました。

YM2608は、その高度なサウンド機能により、多くのゲーム音楽制作において重要な役割を果たしました。その後のサウンドチップの発展にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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