YM2203

YM2203 (OPN) - 80～90年代のPCサウンドを彩ったFM音源チップ

YM2203は、ヤマハ株式会社（当時日本楽器製造）が1984年6月に発売したFM音源チップです。正式名称はFM Operator Type-N、通称OPNと呼ばれています。パソコン市場での利用を主なターゲットに開発され、当時の多くのパーソナルコンピュータに搭載されました。その高い人気と汎用性から、アーケードゲームでも活用された歴史を持っています。

音源としての特徴

YM2203は、4オペレータによる3チャンネル同時発音のFM音源を中核としています。1チャンネルあたり4つのオペレータ（正弦波発信器）を持ち、8種類の接続方法（アルゴリズム）から選択できます。キャリア（被変調オペレータ）を複数のモジュレータ（変調オペレータ）で変調することで、多様な音色を作り出します。

さらに、AY-3-8910互換のSSG（Software-controlled Sound Generator）音源を搭載。PSG音源は、シンプルな音色の生成に適しています。そのため、FM音源では表現しにくい効果音などをPSG音源で補うことで、より豊かなサウンドを実現可能としていました。

YM2203は2系統のプログラマブルタイマーも内蔵しており、タイマー割り込みなどを利用した高度なサウンド制御や、音楽データの再生タイミング制御にも役立っています。マスタークロックは0.7～4.2MHzと幅広い周波数に対応しています。

チャンネル3 (Ch3) は、効果音モードとCSM（複合正弦波合成モード/音声合成モード）の2つの特別なモードを備えています。効果音モードでは、オペレータごとに異なる周波数を設定できるため、複雑で個性的な効果音を生成できます。CSMモードでは、Timer-Aのオーバーフローをトリガーに全てのオペレータを同時にオンにする機能があり、音声合成にも対応していました。ただし、サイン波への分解が必要なため、データ作成には高度なスキルと時間が必要でした。

ハードウェア仕様と周辺機器

YM2203は40ピンのDIPパッケージで、SSG音源部はリード/ライト両対応ですが、FM音源部はライトオンリーです。そのため、FM音源とSSG音源を同時に制御する際には、FM音源部の処理速度に合わせたタイミング制御が必要でした。デジタル出力のFM音源部は、通常D/AコンバータとしてYM3014と組み合わせて使用され、アナログ出力のSSG音源部は別途ミキシングが必要でした。このため、機種によってSSG音源とFM音源の音量バランスや音質に違いが生じることがありました。

搭載機種

YM2203は、1980年代後半から1990年代前半にかけて、多くの日本のパーソナルコンピュータに搭載されました。代表的な例として、NECのPC-6000シリーズ、PC-8000シリーズ、PC-8800シリーズ、PC-9800シリーズ、セイコーエプソンのEPSON PCシリーズ、富士通のFM-77シリーズ、シャープのMZ-2500シリーズなどがあります。一部機種ではオプションのサウンドボードとして提供されたケースもあります。

多くの機種で、YM2203のPSG由来の汎用I/Oポートにはジョイスティックインターフェース（「アタリ規格」と呼ばれるD-Sub9ピンコネクタ）が接続されていました。PC-9800シリーズなどでは、音源ボード自体にジョイスティックコネクタが備え付けられている機種もありました。

アーケードゲームでの利用

YM2203は、アーケードゲームでも使用されましたが、大手メーカーではYM2151（OPM）の方が多く採用されていました。しかし、YM2151よりも安価であったことから、中小規模のメーカーを中心に採用事例が見られます。代表的な例として、UPLの『忍者くん 阿修羅ノ章』、カプコンの『戦場の狼』『魔界村』、タイトーの『ダライアス』、セガ・エンタープライゼスの『スペースハリアー』などがあります。中には、YM3526の入手困難を理由に代替としてYM2203が採用されたケースもあり、基板のバージョンによってBGMの雰囲気が大きく異なる作品も存在します。

まとめ

YM2203は、80～90年代のパソコンゲーム、そして一部のアーケードゲームにおいて、サウンドの表現力を大きく向上させた重要なFM音源チップです。その特徴的な音質と、比較的安価であったという点は、多くの開発者にとって魅力的なものでした。後継チップであるYM2608（OPNA）やYM2612（OPN2）へと進化していく中で、YM2203は、日本のパソコンゲームの歴史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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