YSES 2b

概要

太陽系外惑星YSES 2bは、地球からおよそ359光年離れたはえ座の方向に位置する天体です。この惑星は、比較的若い恒星であるYSES 2（スペクトル分類K1、年齢約1390万年）の周囲を公転しています。YSES 2は、多くの若い星が集まる「さそり–ケンタウルス座アソシエーション」の一員です。YSES 2bは、中心星からの光を直接捉える直接撮像法という観測手法を用いて発見され、2021年 4月16日にその発見を報告する科学論文がプレプリントサーバーarXivに投稿されました。

発見経緯

YSES 2bの発見は、「Young Suns Exoplanet Survey（YSES）」と呼ばれる探査プロジェクトの一環としてなされました。このプロジェクトは、ヨーロッパ南天天文台（ESO）がチリのアタカマ砂漠に持つパラナル天文台に設置されている超大型望遠鏡（VLT）に搭載された高性能観測装置SPHEREを用いて実施されました。YSESプロジェクトの主な目的は、私たちの太陽と似たような若い恒星の周りを公転する太陽系外惑星の、特にその質量や軌道といった物理的特徴を詳細に調査することにありました。SPHEREは、主星の圧倒的に明るい光を遮り、そのすぐ近くにある、暗い惑星からのわずかな光だけを効率的に検出できるコロノグラフという技術を搭載しており、これによってYSES 2bのような、主星からある程度離れた位置にある惑星を直接「撮影」することが可能となりました。

特徴

YSES 2bは、その質量と軌道の性質から注目されています。推定される質量は、太陽系最大の惑星である木星の約6.3倍とされており、これは典型的な巨大ガス惑星に分類される質量です。さらに特筆すべきはその軌道です。主星YSES 2からの平均距離は、驚くべきことに115天文単位（au）に及びます。1天文単位は地球と太陽の平均距離（約1億5000万キロメートル）に相当しますから、115auという距離は、太陽系において最も外側を公転する惑星である海王星の平均軌道半径（約30au）の約4倍、準惑星である冥王星の平均軌道半径（約39.5au）と比べてもはるかに遠い距離です。このように、大質量を持つ惑星が、中心の星からこれほど遠く離れた軌道を公転しているという事実は、惑星系の形成や進化の過程を理解する上で重要な手がかりとなります。

形成論における意義

現在、惑星がどのように誕生するかについては、主に二つの有力な理論モデルが提唱されています。一つは、原始惑星系円盤内の塵やガスが衝突・合体を繰り返し、最終的に大きな固体コアが形成され、その後周囲のガスを引きつけて巨大惑星となるコア集積モデルです。もう一つは、原始惑星系円盤の一部が高密度になり、自身の重力によって急速に収縮して直接ガス状の惑星が形成される自己重力不安定モデルです。

しかし、YSES 2bの約6.3木星質量という質量と、115auという主星からの距離という組み合わせは、これらの標準的な形成モデルの予測と簡単には一致しません。特に、コア集積モデルでは、主星から遠く離れた原始惑星系円盤の外縁部では物質密度が低く、コア形成やそれに続くガス捕獲に膨大な時間がかかるため、YSES 2bほどの質量の惑星が短い時間スケール（主星の年齢である1390万年）で形成されることは難しいと考えられています。自己重力不安定モデルであれば遠方での形成も可能ですが、YSES 2bの質量は、このモデルで形成される典型的な惑星質量（より大きい傾向がある）とはやや異なる可能性が指摘されています。

このような矛盾を説明するため、YSES 2bに関しては、まず比較的近い軌道でコア集積によって形成された後、この惑星系内に存在する可能性のある別の惑星との重力的な相互作用（惑星散乱など）によって、現在の非常に遠い軌道へと移動させられたというシナリオが提唱されています。若い惑星系では、複数の巨大惑星が形成され、その後の重力的な相互作用によって軌道が大きく変化することが理論的に予測されており、YSES 2bはそのような大規模な軌道再配置が実際に起こった証拠である可能性があります。

YSES 2bの発見は、特に若い恒星系の外縁部における巨大惑星の形成メカニズムや、その後の惑星系全体のダイナミカルな進化に関する理解を深める上で極めて重要な観測例を提供しました。今後の追加観測や理論研究によって、この特異な惑星の真の形成史が明らかになることが期待されます。

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