ZINE

ZINE（ジン）とは

ZINE（ジン）とは、個人または少人数のグループが、営利を目的とせず自主的に制作・発行する出版物のことです。雑誌を意味する「Magazine」やファンが作る「Fanzine」を略した言葉で、作者の個人的な思いや主張が色濃く反映される点が特徴です。内容や形式は自由であり、小冊子の形態をとることが多いですが、決まったルールはありません。

主にコピー機やリソグラフ、家庭用プリンターなどで印刷され、ホチキスやクリップなどで簡易的に製本されます。発行部数は少ない場合が多く、100部以下であることが一般的ですが、まれに1000部を超えることもあります。価格設定も自由で、無料のものもあれば有料のものもありますが、いずれの場合も利益を追求することが目的ではありません。

商業出版とは異なり、ZINEは企画から印刷、製本、流通まで、作品が読者に届くまでのすべての工程を作者自身が担います。販売は、個人間の直接取引やZINEの即売会（ZINEフェスティバル）、ZINE専門書店などで展開されます。

ZINEの歴史

ZINEのルーツは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカにおけるアマチュアプレス運動や、1920年代から30年代にかけてのハーレム・ルネサンス期の文学雑誌など、経済的・政治的に疎外された人々が自らの主張を発信する手段として自主的に刊行した出版物に遡ります。

1930年代からは、SFファンの間で作品発表や批評、交流の場として「ファンジン（Fanzine）」が制作され、これがZINEという言葉の起源となりました。1970年代には、パンク文化の隆盛とともに、音楽やファッションだけでなく、アートや文学の分野でもパンクの思想を反映した「パンクジン」が数多く発行され、情報交換やレビューの場として機能しました。

1990年代には、パンクの影響を受けたライオット・ガール運動や第三波フェミニズム運動が起こり、ZINEは女性たちの連帯を生み出す重要なメディアとしての役割を担いました。

これらの流れを通して、ZINEはメインストリーム文化から疎外された人々のためのオルタナティブな存在として、個人の志向や政治的主張を強く表現するメディアとして独自の文化を形成しました。

1980年代から1990年代には、コピー機やパーソナルコンピュータの普及により個人でもZINEの制作が容易になり、その人口は一気に拡大しました。インターネット普及直前がZINEの黄金期だったと言えるでしょう。

インターネットの普及後は、ZINEで行われていたような表現活動はウェブジンや電子書籍に移行し、一時的に衰退しましたが、2010年代に入ると紙媒体としてのZINEが再評価され、世界各地でZINEフェスティバルが開催されるなど、再び活発な動きを見せています。

ZINEの流通

ZINEは、主にZINEフェスティバルなどのイベントやZINE専門書店で販売・配布されます。通常の出版物の流通ルートを通らないため、一般的な書店では入手することが困難です。

ZINEフェスティバルでは、作者自身がテーブルに立って直接作品を販売・配布します。サンフランシスコ・ジン・フェスティバルやロサンゼルス・ジン・フェスティバルは、それぞれ200以上の出展者が参加する大規模なイベントとして知られています。その他にも、ブルックリン・ジン・フェスティバル、シカゴ・ジン・フェスティバル、アムステルダム・ジン・ジャムなど、世界各地でZINEフェスティバルが開催されています。

日本国内では、吉祥寺ZINEフェスティバルをはじめとする各地のZINEフェスティバル、文学作品の展示即売会「文学フリマ」、MOUNT ZINEなどのZINE専門書店で販売・配布されています。

日本におけるZINE

日本においては、ZINEが紹介される以前から、ミニコミやリトルプレス、同人誌といった自主制作出版の文化が存在し、独自の発展を遂げていました。海外のZINEが紹介される際に、パンクジンが「パンク雑誌」と呼ばれるなど、長らく「ZINE」という言葉自体が日本語圏に浸透していませんでした。

2000年代後半になると、海外のアートやファッション業界からの注目が高まり、日本の雑誌やウェブメディアでもアートやファッションの文脈でZINEが取り上げられるようになりました。しかし、その多くが「写真やイラスト作品のポートフォリオ」や「アーティストが作る冊子」といった、本来のZINEの文化とは異なる捉え方をされていました。そのため、有名人による高価な限定版ZINEや企業の広報誌をZINEと呼ぶ例が見られるなど、日本国内でのZINEに対する認識には混乱が見られました。

2017年には、野中モモとばるぼらによって、日本における多様な自主制作出版の流れをまとめた書籍が出版され、2018年にはテレビ番組でもZINEとその専門店が紹介されました。これらの活動を通して、日本国内でのZINEに対する認識は、本来の定義に近いものへと改善されつつあります。

用語

ファンジン（Fanzine）: SFなどのファンが制作した雑誌。ZINEの語源。
ジンスタ（Zinestar）: ZINEの制作者のこと。
* パージン（Perzine）: 個人が制作したZINEのこと。

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