第三波フェミニズム

第三波フェミニズムとは

第三波フェミニズムは、1990年代初頭にアメリカで始まったフェミニズム運動です。第二波フェミニズムの成果を土台とし、ジェネレーションX世代の女性たちを中心に展開されました。この運動は、個人の経験や多様性を重視し、フェミニズムの新たな潮流と理論を生み出しました。

個人主義と多文化主義: 第二波フェミニズムが獲得した権利を基盤に、個々の女性がフェミニストであることの意味を再定義しようとしました。
インターセクショナリティ: 人種、階級、セクシュアリティなど、複数のアイデンティティが交差する視点を重視しました。
セックス・ポジティビティ: 性的な自己決定権を尊重し、性を肯定的に捉える立場を取りました。
インターネットの活用: ブログやオンラインマガジンを通じて、グローバルな読者に向けて発信しました。
ジェンダーロールの打破: ジェンダーの固定観念を覆し、多様なアイデンティティを持つ人々を包摂することを目指しました。

第三波フェミニズムの起源

第三波フェミニズムの起源は、以下の二つの出来事に遡ることができます。

1. ライオット・ガール: 1990年代初頭にアメリカで始まった、フェミニズムとパンクミュージックを融合させたサブカルチャーです。ライオット・ガールは、音楽やジンを通じて、女性のエンパワーメントや社会問題について積極的に発信しました。
2. アニタ・ヒルの証言: 1991年、アニタ・ヒルが、クラレンス・トーマス最高裁判事候補からセクシャル・ハラスメントを受けたと告発した事件は、第三波フェミニズムの大きな契機となりました。この事件をきっかけに、女性に対する性暴力やハラスメントの問題が、社会的に広く認識されるようになりました。

第三波という言葉の誕生

「第三波」という言葉は、アメリカの作家レベッカ・ウォーカーが、1992年に雑誌「ミズ」に寄稿した記事「第三の波になる」で初めて使われました。ウォーカーは、アニタ・ヒル事件をきっかけに、フェミニズム運動が新たな段階に入ったことを宣言しました。

第三波フェミニズムの前史

第二波フェミニズムの成果と限界

第二波フェミニズムは、女性の教育機会の平等、職場におけるセクシャル・ハラスメント防止対策、生殖に関する権利など、多くの重要な成果を上げました。しかし、その一方で、白人中産階級の女性を中心とした運動であり、有色人種の女性やトランスジェンダーの女性などの多様な視点が欠けているという批判もありました。

フェミニスト・セックス戦争

1970年代後半から1980年代後半にかけて、第二波フェミニズムのラディカルな思想やセクシュアリティ観に対する反発として、フェミニスト・セックス戦争が起こりました。この議論は、第三波フェミニズムにおけるセックス・ポジティビティの思想に繋がりました。

ジュディス・バトラーの『ジェンダー・トラブル』

1990年に出版されたジュディス・バトラーの著書『ジェンダー・トラブル』は、第三波フェミニズムの理論に大きな影響を与えました。バトラーは、ジェンダーが社会的に構築されたものであると主張し、均質化された「女性」の概念に異を唱えました。この思想は、クィア理論の基盤となり、第三波フェミニズムの理論と実践を育む上で大きな役割を果たしました。

第三波フェミニズムの初期

ライオット・ガール

ライオット・ガールは、第三波フェミニズムの誕生に大きな影響を与えたサブカルチャーです。DIY精神を掲げ、女性のエンパワーメントや社会問題について、音楽やジンを通じて積極的に発信しました。ライオット・ガールは、女性が自身の声を上げ、連帯する場を提供しました。

アニタ・ヒル

アニタ・ヒルの告発は、女性に対する性暴力やハラスメントの問題を社会的に広く認識させました。この事件をきっかけに、多くの女性が自身の経験を語り始め、第三波フェミニズム運動が加速しました。

第三波フェミニズムの目標

目覚め（Consciousness）

第三波フェミニズムは、社会における「男性支配」の構造に、女性たちが無自覚なまま適応している現状を変えることを目指しました。女性が、自らの置かれた状況を認識し、主体的に行動することが重要であるとしました。

ミクロ・ポリティクス

第三波フェミニズムは、個人的な経験を共有し、語り合うことで、女性たちが孤立することなく連帯できる場を作ろうとしました。女性たちは、自身の個人的な経験が、社会的な問題と深く結びついていることを認識するようになりました。

多様性の包摂

第三波フェミニズムは、第二波フェミニズムの限界を乗り越え、より多くの人々を包摂することを目指しました。人種、階級、セクシュアリティなど、様々なアイデンティティを持つ人々が、フェミニズム運動に参加できるような場を作ろうとしました。

第二波との関係

第二波フェミニズムの限界の克服

第三波フェミニズムは、第二波フェミニズムの思想に疑問を投げかけ、フェミニズムの理論をより幅広い人々に適用しようとしました。第二波フェミニズムの成果を基盤にしながらも、その限界を認識し、より進化したフェミニズム運動を目指しました。

第三波フェミニズムの独自性

第三波フェミニズムは、第二波フェミニズムが重視していた政治運動だけでなく、文化的な側面も重視しました。パンク・ロック、ヒップホップ、ジンなど、多様な文化をフェミニズムに取り込み、より柔軟な運動を目指しました。

第三波フェミニズムの問題

女性に対する暴力

レイプ、家庭内暴力、セクシャル・ハラスメントといった女性に対する暴力は、第三波フェミニズムにおける重要なテーマでした。女性が自身の身体に対する自己決定権を取り戻すことを重視し、関連する社会運動や芸術作品が活発化しました。

リプロダクティブ・ライツ

避妊や中絶の権利は、女性の生殖に関する権利として、第三波フェミニズムによって強く主張されました。女性が、自分の身体と生殖に関する自己決定権を持つことが、重要な目標とされました。

言葉を取り戻すこと

女性を蔑称する言葉を、積極的に使うことで、その言葉が持つネガティブな意味を覆そうとする動きが見られました。女性たちが、自らの言葉で、自らの経験を語ることを重視しました。

性の解放

第三波フェミニズムは、女性が自らのセクシュアリティを自由に表現できる社会を目指しました。セクシュアリティを抑圧するのではなく、肯定的に捉えることの重要性を訴えました。

その他の問題

人種、階級、トランスジェンダーの権利など、様々な問題が第三波フェミニズムによって議論されました。また、職場における男女差別や不公平な育児休暇制度などの問題も、重要なテーマとなりました。

第三波フェミニズムへの批判

まとまりのなさ

第三波フェミニズムは、明確な目標がないため、まとまりがないと批判されることがあります。個人主義を重視するがゆえに、運動としての結束力が弱いという意見もあります。

「波」という区分への疑問

フェミニズム運動を「波」で区分することに対して、疑問を呈する意見もあります。重要な進歩的出来事が、波の狭間に見落とされる可能性があることや、アメリカ中心の視点になっていることなどが指摘されています。

有色人種との関係

第三波フェミニズムは、包摂性を重視しているものの、依然として有色人種の女性が締め出されているという批判があります。女性の権利運動が、白人女性の利益を優先しているという指摘もあります。

「ガーリー・フェミニズム」

第三波フェミニズムは、ガーリー・フェミニズムや低俗文化の出現と関連づけて語られることがありましたが、女性らしさを肯定的に捉えることは、モノ化されることに対する異議申し立てである、という考え方も支持されています。この考え方は、女性が自己表現する自由を重視する、第三波フェミニズムの特徴の一つです。

タイムライン

1990年代

ライオット・ガール運動の隆盛
アニタ・ヒル事件
レベッカ・ウォーカーによる「第三の波」宣言
インターネットを通じたフェミニズム活動の開始

2000年代

フェミニズム理論の多様化
ジェンダー、セクシュアリティに関する議論の活発化
リプロダクティブ・ライツに関する運動の継続

第三波フェミニズムは、第二波の成果を継承しつつ、新たな課題にも取り組んだ、重要なフェミニズム運動です。この運動は、その後のフェミニズム運動に大きな影響を与えました。

もう一度検索