あの夏が飽和する。

あの夏が飽和する。：楽曲から小説、そして漫画へ―メディアミックスで広がる物語

ボカロPカンザキイオリによる楽曲『あの夏が飽和する。』は、2018年の公開以来、YouTubeやニコニコ動画で数百万回再生を記録する大ヒットを飛ばし、同氏の代表作として広く知られています。鏡音リン・レンを用いた物語性豊かな楽曲は、多くのリスナーの共感を呼び、数々のカバー曲も生み出しました。まふまふや花譜によるカバー動画も、それぞれ100万回以上の再生数を誇ります。

この楽曲は、カンザキイオリ氏が自身の高校時代の経験に基づいて制作されたもので、自殺未遂や家出といった重いテーマを繊細に表現しています。完成から数年を経て、2018年8月に公開されたこの曲は、インディーズアルバムへの収録を目指して幾度も改変を重ねた末、世に送り出されました。『命に嫌われている。』と並び、カンザキイオリ氏の代表曲として、2020年のEP『人生はコメディ』にも収録されています。『死ぬとき死ねばいい』、『人生はコメディ』と共に、「あの夏」三部作として作品群を形成し、登場人物の人間性を多角的に描き出しています。LINE MUSICの「聴くと泣けてくる、“涙曲”」ランキングでも81位にランクインするなど、その感傷的な歌詞とメロディーは多くの人々の心を捉えました。

2020年には、楽曲『あの夏が飽和する。』を原作とした同名小説が河出書房新社より刊行されました。これはカンザキイオリ氏の小説家デビュー作となり、大きな話題を集めました。小説は、楽曲の世界から13年後を描写。無気力な日々を送る主人公・千尋を中心に、流花の生き写しの高校生・瑠花やバイト仲間の武命の物語が展開します。彼らの救済に向けた奮闘が、ミステリアスな要素を交えながら描かれています。

書籍化に際しては、豪華声優陣による朗読音源が購入特典として用意されました。初回購入特典には入野自由さんと茅野愛衣さんによる小説冒頭の朗読、そして無期限の購入特典として楽曲『あの夏が飽和する。』、『死ぬとき死ねばいい』、『人生はコメディ』が付属しました。発売6日で重版が決定し、2020年9月時点での発行部数は6万部、2021年11月時点では11万部を突破、2023年2月には15万部を突破し、更なる重版が決定するなど、高い人気を博しています。入野自由、茅野愛衣、梶裕貴の3名によるクライマックスの朗読も収録されています。

ライターの飯田一史氏は、小説版『あの夏が飽和する。』について、「キャラクター小説」というよりは「一般文芸」に近い作品でありながら、「後味の悪い終わり方はしないが、カタルシスがある」と評しています。カンザキイオリ氏自身も、小説版では登場人物たちの繋がりを重視し、ミステリー要素を取り入れることで作品に深みを持たせようとしたと語っています。

さらに、2021年10月には、漫画家・武富智氏による漫画版の連載が『月刊コミック電撃大王』（KADOKAWA）で開始されました。2023年2月25日には、コミックス1巻が発売されました。楽曲、小説、そして漫画と、多様なメディアを通じて展開される『あの夏が飽和する。』の世界は、多くの人の心を捉え続けています。

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