とら醤油

とら醤油株式会社は、岡山県倉敷市に拠点を置く老舗の調味料メーカーです。その歴史は古く、江戸時代の終焉を迎える万延元年（1860年）に「三宅醤油店」として創業されました。

創業から法人化

創業当初は三宅喜十郎氏が初代店主を務め、その長男が二代目として襲名し、三代目には三宅タキ氏が店主となりました。会社の転換期は、四代目の三宅次平氏の時代に訪れます。1918年（大正7年）10月には大國醤油との合併を経て、同年12月には組織を株式会社へと改め、「三宅醤油株式会社」が設立されました。この時、三宅次平氏が初代代表取締役に就任しています。

三宅次平氏の時代と「とら醤油」の誕生

三宅次平氏は、家業である醤油醸造業に精力的に取り組む傍ら、地域社会においても多岐にわたる活動を行いました。例えば、酒津薪炭合資会社の設立に関わったほか、都窪郡中洲村の村会議員をはじめ、区委員、常設委員、水利関係組合委員、さらには組合立倉敷高等女学校の務委員などを歴任しました。また、醤油業界においてもその指導力を発揮し、岡山県醤油同業組合の評議員、そして倉敷、都窪、吉備の一市二郡における同組合の支部長を務めるなど、地域経済と産業の発展に貢献しました。

同社の醤油ブランドは、以前は「元酒津醤油」として知られていましたが、三宅次平氏の代から「とら醤油」という名称が用いられるようになりました。この「とら醤油」というユニークな名前には、次平氏の商売に対する真摯な願いが込められています。彼は吉備津彦神社で商売繁盛について相談した際、自身の生まれた干支（申年）の反対側にあたる「裏干支」（十二支を円形に並べた時に向かい合う干支）を大切にすると商売が栄えると助言されました。申年の裏干支は寅であることから、「とら醤油」と名付けられたのです。

「とら醤油」ブランドの確立とともに、同社の事業は大きく発展しました。日本国内では県内外に支店や特約店を設け販路を拡大。さらに、海外にも目を向け、台湾、満州、アメリカなどへの輸出も積極的に行われました。その品質の高さは国内外で高く評価され、当時の博覧会や共進会においては数々の栄誉に輝き、一等金牌や名誉金牌を多数受賞するに至りました。特に、1928年（昭和3年）11月10日には宮内省への嘉納が認められ、1930年（昭和5年）11月20日には昭和天皇による観覧と買い上げを受けるなど、最高レベルの評価を獲得しています。

会社の名称は、そのブランド名を冠する形で変更されました。1950年（昭和25年）、三宅醤油株式会社から「とら醤油株式会社」へと社名が変更され、国内では珍しい動物名を冠した醤油メーカーとして知られるようになりました。

近年の経営と再生

しかし、長い歴史を持つ同社も近年、経営の困難に直面します。2020年5月19日、同社は民事再生法の適用を申請する事態となりました。当初は主要な取引先であった盛田からの支援を受けて再建を目指しましたが、これは頓挫しました。その後、個人の投資家による新たな支援を得ることで、事業と従業員の雇用を守るための新会社が設立されました。旧来のとら醤油株式会社は、2022年1月31日に清算結了の登記を完了しています。

そして、新体制となったとら醤油株式会社は、2023年にはOICグループの一員となり、丸越醸造の傘下に入りました。これにより、老舗の暖簾は守られつつも、新たな経営基盤のもとで事業が継続されています。

とら醤油株式会社の歴史は、江戸時代からの伝統、近代における革新と地域への貢献、そして近年の困難からの再生という、波乱に富んだ道のりを示しています。特に、裏干支に由来する「とら」のブランド名は、創業者の商売への想いを今に伝え、同社のユニークなアイデンティティとなっています。経営危機を乗り越え、新たな船出を切った同社の今後の展開が注目されます。

もう一度検索