へし切長谷部

国宝「へし切長谷部」：歴史と美の融合

南北朝時代の名工による傑作

「へし切長谷部」は、日本刀史において重要な位置を占める国宝です。南北朝時代に活躍した名工、長谷部国重によって作られたと伝えられるこの打刀は、その作風、来歴、そして数奇な歴史から、多くの刀剣愛好家を魅了し続けています。長谷部国重は、名刀工として知られる正宗の門下生であり、長谷部派の祖としても名を馳せています。

織田信長、羽柴秀吉、そして黒田家へと受け継がれた歴史

「へし切長谷部」という名は、織田信長が茶坊主を斬殺した際に用いたことに由来すると言われています。信長から羽柴秀吉へと渡り、その後、黒田長政（もしくは黒田孝高）に下賜されたと伝えられています。確実な経緯は諸説ありますが、黒田家に家宝として大切に受け継がれ、藩主代々によって保護されてきました。江戸時代中期には、徳川吉宗が編纂させた『享保名物帳』に唯一の長谷部派作品として掲載され、その卓越した技術が広く認められたことがわかります。

近代以降の経緯と福岡市博物館への寄贈

昭和8年には重要美術品に認定され、昭和11年には国宝（旧国宝）に指定。その後、昭和28年には文化財保護法に基づく国宝（新国宝）に指定され、その歴史的・芸術的価値の高さが改めて認められました。昭和53年には、黒田家より福岡市に寄贈され、福岡市博物館に収蔵されています。現在では、毎年1月上旬から2月上旬にかけて一般公開され、多くの人がその姿を目にすることができます。

刀身の美と特徴

「へし切長谷部」の刀身は、鎬造、庵棟という造込が施されています。刃長64.8cm、反り0.9～1.0cmと、南北朝時代の刀剣の特徴をよく示しています。製作当初は大太刀でしたが、後世に磨り上げられて刀となりました。そのため作者の銘はありませんが、本阿弥光徳による鑑定を経て、長谷部国重作と認められ、金象嵌で銘が入れられています。地肌は詰んだ小板目肌に地沸がつき、刃文は皆焼ながら、上半と下半で異なる特徴を見せています。帽子は乱れ込んで返り、表裏の鎬には棒樋が掻き通されています。茎には黒田長政の所持銘と、鑑定者である本阿弥光徳の銘が金象嵌で施されています。

豪華な拵えと付属品

現存する拵えは、「金霰鮫青漆打刀拵」と呼ばれ、黒田家に伝来した名物「安宅切」の拵えを模したものと推測されます。柄は朱塗鮫に燻韋の柄巻、鞘は青漆に金の霰地を圧し出した片身替という豪華な造りです。鐔、目貫、縁金なども高価な材料と高度な技術によって作られており、拵え全体もその美しさから注目を集めています。他に、金二重桐紋透鎺、黒漆塗刀箱、刀袋などの付属品も現存しています。

まとめ

「へし切長谷部」は、その優れた作風、数奇な歴史、そして豪華な拵えによって、日本の国宝の中でも特に重要な位置を占める名刀です。単なる武器ではなく、歴史、文化、そして芸術が凝縮された存在と言えるでしょう。福岡市博物館での展示は、多くの人々にその素晴らしさを伝える貴重な機会となっています。今後も、この貴重な文化財が大切に保存・継承されていくことを願っています。

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