やさしいライオン

やさしいライオン

『やさしいライオン』は、やなせたかしによる幼児向けの心温まる絵本であり、多様なメディア展開も行われた人気作品です。本作は、動物の親子の絆を通じて愛情や成長を描いており、全国学校図書館協議会や日本図書館協会の選定図書にも選ばれています。

作品の発展

この物語の基になったのは、実際にあったドイツの動物園で犬が赤ちゃんライオンを育てたというエピソードです。そのアイデアを基に、やなせは当初コントとしてストーリーを考え、1967年には文化放送でラジオドラマとして放送されました。ドラマは好評を得たことから、1969年にフレーベル館から絵本として出版されました。その後、改訂版や紙芝居も作られ、視聴者や読者の心に深く刻まれています。

やなせにとって、この作品は絵本作家としてのデビュー作であり、その成功が子ども向け絵本の制作を数多く手掛けるきっかけとなりました。また、ラジオドラマの際には、磯部俶作曲、ボニージャックスの歌による楽曲も作成され、アニメ映画にも活用されました。

あらすじ

物語は、ある動物園で生まれた赤ん坊のライオンが母親を失い、厳しい空腹に苦しむところから始まります。この子ライオンは「ブルブル」と名付けられ、代替の母親が必要でした。そこで、赤ん坊を亡くしたメス犬「ムクムク」がブルブルの新しい母親となり、彼に愛情深く接します。

ムクムクはブルブルに優しく子守歌を歌い、様々な芸を教えます。ブルブルは次第に犬のように振る舞うようになり、その後立派なライオンに成長しますが、ムクムクは年を重ねながらも元気に彼を見守ります。

しかし、運命の日が訪れます。ブルブルは他の動物園に移ることが決まり、ムクムクと別れなければならなくなります。その後、ブルブルは別の動物園でサーカスの人気者となりますが、ある晩、懐かしい母親の子守歌を思い出し、無意識のうちに彼女を探し始めます。

その瞬間、街に混乱が訪れ、兵隊たちがライオンを捕まえようと銃を持って追いかけます。ブルブルは林の中で老いたムクムクを見つけ感動的な再会を果たしますが、兵隊たちに囲まれた中で悲劇が待っていました。最後には、ブルブルはムクムクを抱きしめたまま静かに旅立つシーンで物語が締めくくられます。このシーンが象徴するように、愛情と犠牲の深さが強調されています。

映画化

1970年には、やなせ自身が監督と脚本を手掛けたアニメーション映画が公開されました。この映画は、児童福祉文化奨励賞や毎日映画コンクールの受賞歴も持ち、当時の観客に感動を与えました。リニューアル版も製作され、ストーリーの一部が変更されて現代の視聴者に適応しています。

製作の背景

この映画は、手塚治虫が制作を手掛けており、彼の支援を受けて生まれた作品です。手塚はやなせに対し、自分のスタッフを使って好きな映画を作るよう提案し、その結果、やなせが理想とする形で『やさしいライオン』が完成したのです。制作チームは、手塚の虫プロダクションが中心となり、多くの才能あるスタッフが集まりました。

やなせたかしの描く『やさしいライオン』は、見る者に深い感動と教訓を届ける作品であり、世代を超えて愛され続けています。

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