アメリカ様

宮武外骨の代表作『アメリカ様』は、1946年5月3日、極東国際軍事裁判の開廷日に出版されました。この作品は、太平洋戦争における日本の無批判な体制への追従と、敗戦後の急激な変化を、痛烈な皮肉を込めて描いたものです。

著者の宮武外骨は、戦前は政府に迎合し、太平洋戦争を肯定的に捉えていました。しかし、敗戦後、状況が一変すると、今度は戦勝国であるアメリカを過剰に賛美する態度に転じ、その様子を自身を「半米人」と称して表現しました。

『アメリカ様』では、こうした敗戦後の日本人の心情や行動を、鋭い観察眼とユーモラスな筆致で描き出しています。当時の日本社会の混乱と矛盾、人々の心理的な葛藤を鮮やかに浮き彫りにし、読者に深い衝撃を与えました。

作品の内容は、単なるアメリカへの賛美や批判にとどまりません。むしろ、戦時中から戦後にかけての日本人の精神構造、特に権力への盲目的な従順さや、状況に応じて態度を変える流動的な倫理観を、痛烈に批判する内容となっています。

出版された1946年は、まだ占領下の日本であり、言論統制が厳しく行われていました。そのため、この作品はGHQ（連合国軍最高司令官総司令部）の検閲を受け、一部が削除されるという事態に遭遇しました。このことは、この作品がいかに時代を鋭く捉え、権力に抵抗する姿勢を持っていたかを示しています。日米両国から言論弾圧を受けたという事実は、この作品がいかに時代を鋭く捉え、権力に抵抗する姿勢を持っていたかを示しています。

『アメリカ様』は、単なる歴史的記録ではなく、現代社会においても普遍的な問いを投げかける作品です。権力への従属と抵抗、愛国心と現実の狭間で揺れる人間の心理、そして、社会の急激な変化に対応する人間の姿など、現代社会においても多くの示唆を与えてくれます。

この作品は、1992年に『宮武外骨著作集　第8巻』として河出書房新社から刊行され、2014年には筑摩書房「ちくま学芸文庫」から、西谷修氏と吉野孝雄氏による解説付きで再刊行されました。国立国会図書館デジタルコレクションでもインターネット公開されており、現代の読者も容易にアクセスできるようになっています。

『アメリカ様』は、戦後日本の複雑な歴史と社会構造、そして人々の心の動きを理解する上で、非常に貴重な資料であり、現代社会における普遍的な問題を考える上で、示唆に富む作品と言えるでしょう。その大胆な表現と鋭い洞察力は、今なお多くの読者を魅了し続けています。

もう一度検索