アリス・プラン

モンパルナスのキキ：アリス・プランの生涯

アリス・プラン（1901年10月2日-1953年4月29日）。その名よりも「モンパルナスのキキ」として知られる彼女は、20世紀初頭の芸術的中心地、パリのモンパルナスで、歌手、女優、モデル、そして画家として輝きを放った伝説的な女性でした。彼女の人生は、華やかさと悲しみが複雑に絡み合った、まさにドラマそのものでした。

キキはフランスのブルゴーニュ地方で生まれました。私生児として、祖母のもとで育てられ、12歳でパリへ送られました。しかし、読み書きと計算を覚えるとすぐに学校を辞め、母と共に仮綴じ工や靴修理など、貧しい生活を送ります。14歳でパン屋に奉公に出たもののすぐに辞め、彫刻家のモデルとして働き始めます。

第一次世界大戦中、キキはパリの芸術家たちの住処を転々としながら生活していました。1918年、ある画家と暮らし始めると、モイズ・キスリング、藤田嗣治といった著名な画家たち、そして写真家のマン・レイのモデルを務めるようになります。やがて、モンパルナスに新しくオープンしたナイトクラブ「ル・ジョッケー」で、歌手、女優として活躍を始め、その才能は劇場や映画界にもすぐに知れ渡り、多くの著名人たちを魅了しました。

雑誌『パリ=モンパルナス』の発行者であるアンリ・ブロッカとの愛人関係を経て、画廊で個展を開き、画家としてもデビューを果たします。しかし、歌手としての成功は長く続きませんでした。1925年、ドサ回り中に警官を負傷させたとして裁判にかけられましたが、放免されます。その後はパリの場末のナイトクラブで歌い、クリーニング屋で働くなど、生活は不安定でした。

第二次世界大戦が始まると、キキは反ナチス運動に関わり、ゲシュタポに追われる身となります。危険を避けるため、故郷のブルゴーニュへ戻りましたが、フランス解放後にパリへ戻ると、今度は麻薬密売の容疑で逮捕され、懲役2ヶ月、罰金300フランの判決を受けました。晩年は水腫に苦しみ、1953年、内出血により41歳の若さでこの世を去りました。

キキは、モーリス・ユトリロ、アメデオ・モディリアーニ、シャイム・スーティンといった多くの巨匠たちのモデルを務めました。特にマン・レイとの関係は深く、1930年まで続き、彼の制作した映画3本にも出演しています。ロベール・デスノスをはじめ、多くの作家がキキの人生を賛美しました。彼女が残した足跡は、モンパルナスの華やかな時代、そして激動の20世紀を象徴する存在として、今もなお人々の記憶に刻まれています。

キキの人生は、貧困、裏切り、スキャンダル、そして芸術への情熱が入り混じった、複雑で魅力的な物語です。彼女が描いた絵画や、彼女をモデルにした作品は、今もなお人々にインスピレーションを与え続けています。モンパルナスのキキという伝説は、単なるナイトクラブの歌手や女優を超え、自由奔放で強い意志を持った女性の象徴として、語り継がれることでしょう。

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