アントン・ワルター

アントン・ワルター：フォルテピアノ製作の巨匠

アントン・ワルター（Gabriel Anton Walter, 1752年2月5日 - 1826年4月11日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、ウィーンで活躍した著名な鍵盤楽器製作者です。彼は、当時の音楽界を牽引したモーツァルトやベートーヴェンなどの音楽家たちに愛用されたフォルテピアノを製作し、その名声を確立しました。

生涯

ドイツのノイハウゼン・アウフ・デン・フィルデンで生まれたワルターは、ウィーンで没しました。父親は大工でありオルガン奏者でもあり、母親はイタリア系の出身でした。ウィーンに移住する以前の彼の経歴については、詳しいことは分かっていません。1770年代半ばにはウィーンに移住し、鍵盤楽器製作者としての活動を始めたと考えられています。

ワルターが最初に実績を認められたのは、楽器修復者としてでした。1781年には、エステルハージ宮殿から鍵盤楽器の修復を依頼され、その記録が残っています。当時のウィーンにおいて、ワルターは同業組合（ギルド）の会員としてすぐに認められたわけではありません。その理由は、彼が当時の急進的な反体制運動の賛同者と見なされていたため、活動が制限されたからです。しかし、マリア・テレジアやヨーゼフ2世の計らいにより、1790年代初めにはギルドへの加入が認められ、その後「宮廷付きオルガンその他楽器製造業者」の称号を得ました。この頃から、彼の楽器には「ANTON WALTER in WIEN」の銘板が入れられるようになりました。

1796年発行の『ウィーン・プラハ音楽芸術年鑑』には、当時のウィーンにおけるピアノ製作者に関する記事があり、アントン・ワルターが最も優れた製作者として評価され、ヨハン・シャンツ、ナネッテ・シュトライヒャーがそれに続くと記されています。1800年には、義理の息子であるヨーゼフ・シェフストスが経営に参画し、「ANTON WALTER & SOHN」の商標が使用されるようになりました。

ワルターの楽器と評価

ワルターのフォルテピアノは、モーツァルトやベートーヴェンといった一流の音楽家から高く評価され、19世紀初頭には時代の最先端を行く製造業者としての名声を得ました。しかし、19世紀後半になると、ピアノ製造技術の革新や、より大型で音量の大きな楽器を求める時代の流行の変化に取り残され、ワルターのピアノ事業は徐々に衰退していきました。

ワルターは、1770年代から1790年にかけて、グランドピアノ、スクエアピアノ、オルガンなど、300以上の鍵盤楽器を製作したとされています。現存しているのは、主にフォルテピアノかスクエアピアノです。

特に有名なのは、モーツァルトが購入したフォルテピアノです。この楽器にはワルターの銘板がなく、彼がウィーンに拠点を置いて間もない頃に製作されたものと推測されています。モーツァルトの死後、このピアノは未亡人コンスタンツェから息子のカール・トーマスに相続され、現在はザルツブルクのモーツァルテウム財団が所有し、モーツァルトの生家に展示されています。

また、フランツ・シューベルトが友人の画家リーダーの下宿に滞在していた際、友人が所有していたワルター製のスクエアピアノを借りて使用していました。この楽器は1800年以降に作られたもので、シューベルトの死後、リーダーによって売却されました。一時期はルートヴィヒ・ベーゼンドルファーが所有していましたが、現在はウィーンの芸術歴史博物館に所蔵されています。

ワルターのフォルテピアノは、現代のフォルテピアノ製作者によって頻繁にモデルとして用いられています。

アクションの特徴

ワルターは、ヨハン・アンドレアス・シュタインのアクションを基に改良を加え、独自のウィーン式アクションを完成させました。このアクションは、バックチェック機構を備えているのが特徴で、その後のウィーン式アクションの規範となりました。

まとめ

アントン・ワルターは、フォルテピアノの発展に大きく貢献した鍵盤楽器製作者です。彼の楽器は、当時の音楽家たちに愛され、現代の楽器製作にも影響を与え続けています。ワルターの製作した楽器は、音楽史における貴重な遺産と言えるでしょう。

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