アーシング

アーシング（Earthing）とは

アーシングとは、自動車の電気回路において、バッテリーのマイナス極と各電装部品を結ぶ配線経路の電気抵抗を低減させることを目的とした手法です。これにより、電気が必要な箇所へ安定して十分な電力を供給できるようにし、結果としてヘッドライトの明るさやエンジンの応答性、燃費効率といった車両性能の向上を目指す改造とされています。

名称の由来

この言葉は、英語の「earth」（アース、地面や電気回路のマイナス極を指す）に動名詞を形成する接尾辞「-ing」を付け加えた、「earth+ing」から生まれた和製英語です。「アースボンディング」や「アースチューン」といった呼称で呼ばれることもあります。

開発の背景と仕組み

アーシングは、もともと車両の電気回路設計において「アースボンディング」と呼ばれる基本的な考え方をさらに発展させたものです。アースボンディングとは、車体自体を電気の通り道（マイナス極）として利用する際に、部品間や構造体間の導通を確保するための接続を指します。アーシングでは、このアースボンディングに加え、あるいは置き換える形で、バッテリーのマイナス端子と、電流が多く流れる重要度の高い電装部品（例えばエンジンブロック、ヘッドライト、オーディオ機器など）を、純正配線よりも電気抵抗の低い（通常は太い）電線で直接接続します。

この手法は当初、特殊な構造を持つ車両で電気的な安定性を確保するために用いられました。例えば、車体にFRPなどの電気を通しにくい素材が多く使われている改造車や、わずかな電気伝導損失が性能に影響するレース用車両などです。また、配線や接続部の腐食・劣化が進んだ旧年式の車両においては、低下した電気性能を回復させるためのメンテナンス手段としても有効でした。しかし、その後は「車両本来の性能を最大限に引き出す」と謳われたり、あるいはエンジンルーム内の配線を装飾的に見せるためのドレスアップ目的で広く行われるようになりました。なお、マイナス側だけでなく、バッテリーのプラス極側の配線を強化する「プラスチューン」と呼ばれる手法も存在します。

期待される効果

アーシングを施すことで、以下のような効果が期待できるとされています。

エンジンの出力・トルク感の向上: 点火系への電力供給が安定し、燃焼効率が改善されるためとされる。
燃費性能の改善: 同様に燃焼効率の向上や、電力供給の安定化によるエアコンなどの補器類の負担軽減に起因すると考えられる。
ヘッドライト光量の増加: ライトへの電圧降下が抑制され、本来の明るさを発揮できるようになる。
カーオーディオの音質改善: オーディオ機器への安定した電源供給により、ノイズが低減されるとされる。
* 電装品の動作安定化: 特に、パワーウィンドウや電動ミラーなどの動作がスムーズになる。

これらの効果は、特に最初の配線設計が簡素であったり、経年劣化によって電気抵抗が増加している車両で顕著に感じられることが多いと言われています。例えば、比較的に純正の配線が細い傾向にある軽自動車や、配線や接続部の腐食が進みやすい環境で使用された古い車両（特にオートバイのセルモーターの始動性や灯火類の明るさ）などでは、アーシングによってある程度の改善が見られる場合があります。ただし、灯火類の明るさ確保に関しては、アーシングよりもリレーを介在させる方が効果的とされる場合が多いです。

効果に関する議論

一方で、近年の多くの自動車では、製造工場出荷の段階で、車両の機能を満たす上で必要かつ十分なアース接続が既に配慮されています。このため、「標準で備わっているアース線に加えて、さらにアース線を追加することが、科学的・客観的に見て本当に意味があるのか」については、専門家の間でも意見が分かれており、賛否両論が存在します。確かに、コスト削減や軽量化のために「必要最低限の機能」を満たす接続しかされていない可能性も考えられます。しかし、逆に、燃料の完全燃焼を促すために十分なアース接続が既に施されている可能性も十分に考えられます。

実施上の注意点

アーシングは車両の電気的な設計を変更する行為にあたるため、電気工学に関する十分な知識がない人が安易に行うべきではありません。誤った施工は、期待する効果が得られないだけでなく、車両の性能を低下させたり、電装部品の故障や寿命短縮、さらには最悪の場合、車両火災につながる危険性も伴います。

特に、ダイレクトイグニッションを採用しているような近年の車両では、エンジンの電気的な制御バランスが崩れ、かえって性能が低下する事例が多く報告されています。また、他の車種や車両の状態によっては、オーディオの音質が悪化したり、ヘッドライトのバルブ、スパークプラグ、バッテリーといった各種電装品の寿命が短くなる可能性も指摘されています。さらに、自動車のエンジンルーム内は高温にさらされるため、純正配線にはJASO規格などに準拠した耐熱性、耐振動性、耐燃性の高い配線材が使用されています。十分な知識や評価を行わずに、これらの要求を満たさない一般的な電線を使用することは極めて危険です。

アーシング作業を行う際には、バッテリーの端子を一時的に外すことが一般的ですが、このバッテリー脱着によって、エンジンの制御コンピューター（ECU）の燃焼や変速に関する学習データがリセットされ、再学習によって車両の走行性能が一時的、あるいは恒久的に変化する場合があります。この変化とアーシングによる効果を区別することは困難です。また、バッテリー端子への再接続時に、端子の増締めや接触面の清掃が行われることがあり、これだけでも電気的な接触抵抗が改善し、性能が向上することがあります。このような他の要因による変化を、アーシング単独の効果と混同しないよう注意が必要です。

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