ウトロ地区

ウトロ地区：歴史と現状、そして未来への道

ウトロ地区は、京都府宇治市伊勢田町に位置する、特異な歴史を持つ地区です。第二次世界大戦中に京都飛行場建設のために集められた朝鮮人労働者とその子孫が暮らす集落として、その歴史は始まりました。しかし、戦後の混乱の中で不法占拠状態となり、長らく複雑な問題を抱えてきました。この記事では、ウトロ地区の歴史的背景、問題の推移、そして現在進められている住環境改善について詳しく解説します。

ウトロ地区の起源

1942年、日本政府は京都飛行場の建設を決定し、その工事に多くの労働者が動員されました。その中には約1300人の朝鮮人労働者が含まれており、彼らは併設の飛行機工場で働くために、この地に集められました。彼らのための宿泊施設（飯場）が現在のウトロ地区の前身です。戦後、飛行場建設は中止され、彼らは職を失い、また、故郷への帰還も困難な状況となりました。そのため、彼らはそのままウトロに留まり、生活を続けることになったのです。

ウトロ地区の住民は、自分たちの居住権は、日本政府や、当時の建設を請け負った日産車体（当時は日本国際航空工業）に保証されるべきだと主張しました。一方で、ウトロ国際対策会議などの調査では、当時の労働者たちは、国民徴用令や国家総動員法による強制的な徴用ではなく、経済的な理由で自発的に移住してきた者が多かったとされています。また、韓国政府の調査においても、ウトロ地区の住民の多くは、強制徴用者ではなく、元から日本に居住していた朝鮮人だったことが明らかにされています。

現在のウトロ地区では、高齢化が進んでいます。2005年の調査では、地区に暮らす65世帯のうち、戦時中に飛行場建設に関わった者とその子孫、親類縁者、戦後に移住してきた家族がそれぞれ約3分の1を占めているとされています。また、生活保護を受けている世帯も多く、若い世代は転出し、高齢者層が残る傾向にあります。

ウトロ地区問題の推移

終戦後、ウトロ地区は不法占拠状態となりました。GHQは退去を勧告しましたが、経済的な理由などで帰国できない人々が残りました。彼らが住んでいた飯場が、ウトロ地区の原型となったのです。日本国内の他の朝鮮人集落と異なり、ウトロ地区は私有地を不法占拠しているという点が特徴的です。

1962年、ウトロ地区の土地所有権は日産車体に移りました。1980年代には、日産車体と住民との間で水道管の敷設を巡る対立が発生しました。最終的には日産車体が水道管の敷設を認めましたが、これはウトロ地区の問題が単なる土地問題ではなく、人権問題であることを示唆する出来事でした。

土地転がし騒動

1987年、日産車体はウトロ地区の土地を、自治会長を自称する人物に売却しました。しかし、その人物は直後に土地を不動産会社に転売し、土地の所有権が複雑化しました。この土地転がし騒動は、ウトロ地区の問題をさらに深刻化させました。住民側は、この土地の売買は違法であると主張し、土地の明け渡しを拒否しました。この結果、住民と不動産会社との間で長期にわたる法廷闘争が繰り広げられました。

立ち退き訴訟と日産への要求

不動産会社は、住民に対して立ち退きを求める訴訟を起こしました。2000年、最高裁で住民側の敗訴が確定しました。住民は、自分たちの先祖が強制労働に従事させられたとして、日産車体に補償を求めましたが、日産車体はこれを拒否しました。住民は海外にも訴えを起こし、その結果、国際連合人権委員会が調査に乗り出し、ウトロ住民の居住権を保障するよう日本政府に勧告しました。

不正な所有権変更と韓国政府の支援

2004年には、ヤクザ出身の人物に土地の所有権が移転され、さらに問題が複雑化しました。この人物は、韓国政府に土地の買い取りを要求しました。韓国国内でウトロ問題への関心が高まり、市民団体による募金活動や、韓国政府による支援が行われました。

土地買い取りと住環境整備

韓国の市民団体と韓国政府の支援金によって、ウトロ地区の土地の一部が買い取られ、2007年には、住民と西日本殖産の間で、地区の半分を買い取ることで合意が成立しました。その後、公営住宅の建設や住環境の改善が計画されましたが、様々な問題によって事業は遅延しました。2011年には、国土交通省も住環境整備に向けて動き出し、本格的な改善が始まりました。

不法占拠状態の解消と住環境整備

2010年代に入り、ウトロ地区の住環境改善に向けた動きが加速しました。2011年には、関係機関による協議会が再開され、基本構想の策定に向けた作業が始まりました。不法占拠状態の解消のために、住民は長年住み続けてきた家屋の撤去に合意し、補償を求めないことも決定しました。この結果、国からの交付金が計上され、地区の住宅状態を調べる基礎調査が行われることになりました。

市営住宅の建設

2016年、市営住宅建設のために家屋の取り壊しが始まりました。2017年には、40世帯分の市営住宅1期棟が完成し、2023年には2期棟も完成しました。これにより、ウトロ地区の住環境は大きく改善されました。

その他の出来事

2005年頃、ウトロを守る会のホームページが閉鎖されました。
2007年には、正体不明の人物から4000万円の寄付金がウトロ地区町内会に届けられました。
2021年、地区内で放火事件が発生し、空き家や倉庫が全焼しました。犯人は、ヘイトクライムの可能性があるとされ、実刑判決を受けました。
2022年、ウトロ地区の歴史を伝える「ウトロ平和祈念館」が開館しました。

まとめ

ウトロ地区は、戦時中の歴史に翻弄された朝鮮人労働者とその子孫が暮らす、特異な歴史を持つ地区です。長年にわたり、不法占拠状態や土地を巡る問題に悩まされてきましたが、近年、住環境の改善が進められています。ウトロ地区の歴史は、過去の過ちを繰り返さないために、そして、多文化共生社会を実現するために、私たちに多くのことを教えてくれます。ウトロ平和祈念館の開館は、この教訓を未来に伝えるための重要な一歩となるでしょう。

ウトロ地区の歴史は、私たちに、過去の過ちを忘れず、差別のない社会を目指すことの大切さを教えてくれます。

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